2023年映画感想No.59:リバー、流れないでよ ※ネタバレあり
2分間という極めて自由度の低いタイムループ
テアトル新宿にて鑑賞。
2分間隔のループって何ができるの?と思いながら観てたのだけど、できることが少ない中でちゃんとドラマが展開していく推進力の高い脚本でとても面白かった。
まず最初は2分のループの自由度の低さを体感させられるようなルール確認のパートがある。2分というループの設定に加えて各々が置かれている状況も中々に面白みがなくて、色々やってみようにもできることが少ないのでループしている状況に全然うま味がないのが面白い。置かれた状況によってループの順応にムラがあるのだけど、飲み込みの早い人たちがどんどんループものボキャブラリを使い出すのもループという設定が定番化した今だからこその演出で楽しい。
一回一回2分間を長回しで繰り返す撮影によって「一々あっち行ったりこっち行ったりするのが大変」という登場人物のうんざり感を観ている観客も追体験させられるような見せ方になっている。旅館の作りをいかんなく活かしてくれるのが場面に運動的なバリエーションを生み出しているし、物理的な大変さをより際立ててもいて上手い。
途端に煮詰まる人間関係
記憶は引き継ぐし、いつループから抜け出すかわからないから関係をこじらせたり物を壊したりするなと言っている傍から状況が悪化していくのもおかしい。やることが無いので必然的に人との会話に新鮮味を求めるようになるし、案の定すぐ煮詰まる。
ループという設定自体が「前に進めない状態」だからこそ「問題と向き合い、乗り越える」という前進がループを抜け出す過程と重なることに寓話としての必然があるわけだけど、登場人物それぞれが抱えている不満や葛藤がちゃんとこの映画ならではのループの設定によって見えてくるというのが構成として素晴らしかった。
色々大変だー!!と騒々しくなることで休憩していた男の子が起き出してくるのも上手いし、それこそが主人公の乗り越えるべき問題に繋がっているのも展開として綺麗。
ループを享受する者とループに絶望する者
主人公個人の問題の話から「なぜループしているのか」という全体の論点にもう一度戻っていく構成も良かった。
主人公にはこの時間が続いて欲しいという切実な理由があって、彼女の無邪気さによって映画的にも初めてループという状況による幸福な一面が描かれるのだけど、ループが持つ絶望的な側面がその状況に待ったをかける。
楽しいトーンになりかけるところからのシリアスな落差によって「ちゃんと問題に向き合え」と目を覚まされるような展開が結構ショッキングなのだけど、そこをあまり大ごとにせずすぐにホッとさせるようなバランスで回収してくれるのが映画として優しい。
取り返しのつかないことにならないのがループの良いところでもあり、一方でやっぱりループから抜け出さなければいけないというきっかけにもなっている。
抱えていた問題を乗り越えていく登場人物たち
そこから「どうやってループを抜け出すのか」という論点に展開していくのだけど、ループものという映画自体がえてして「問題を乗り越えること」のメタファーとして描かれがちだからこそ、登場人物たち自身も精神的な理由に原因を求めていく。「多分こういうことだ」という一か八かの理屈でタイムループを解除しようとするのはこの手の映画のご都合主義的な要素でもあるわけだけど、この映画ではそのお約束を意識的に裏切るような描き方になっている。
「前に進めない」という現在の状況を主人公だけの問題にせず、登場人物各々が自分の中にある「時間が止まって欲しい」という理由ときちんと向き合い、ループしたからこそ気づけた形で自分たちが抱えていた問題を前向きに乗り越えていくのが素晴らしかった。
ちゃんとそれぞれが綺麗に前に進めるようになったところで「そういう観念的な話ではないです」とめちゃめちゃ何でもありの即物的な原因がわかるのも潔くて笑った。
最後まで大変なループの設定
タイムマシンを動かすターンの長回しがここにきて中々に大変そうで、あっさり解決させてくれないのもことごとく登場人物たちに優しくないタイムループなのだけど、みんなで力を合わせて頑張って先に進めるようになるラストも爽やかで良かった。
まあ主人公たちだけのタイミングで時間を動かしてどこかの誰かが取り返しのつかないことにならない?と思ったりもするのだけど、そこは言わぬが華ですね。