姿勢と心臓とミノタウロス
背中を丸めて勉強や仕事をしていると姿勢が悪くなってるよ、と言われる方も多いんじゃないかと思います。
なぜ背中が丸まると良くないのか。
結論から言うと猫背は重心の前方偏位、内臓の下方偏位及びうっ滞をもたらし、
仕事やスポーツでのパフォーマンス低下、老後においてはひとつのバッドイベントで生命維持にも支障をきたす可能性を持っています。
背骨はS字
成人において背骨(医学的には脊柱と呼ぶので以下から脊柱と書きます)は生理的弯曲と言ってS字カーブを描いています。
頚椎前弯、胸椎後弯、腰椎前弯という感じ。(実際には仙骨、尾骨が後弯しているので波型というか)
(坂井 建雄監訳, プロメテウス解剖学アトラス, P100より転載)
地球上を直立2足歩行する人間においては1歩歩くごとに約2.5cm重心が上下します。脊柱はショックを吸収するためのサスペンションのような役割を果たしていて頭が上下に揺れないようにしているとも言われています。
目からの情報に頼っている動物にとっては頭の高さは安定したほうがいい。
(鳩が歩く姿を見ると頭は前後に動いているけど高さは変わらないのがよく分かります)
そもそも視野は横方向に広いため横に動くものを捉えるのは比較的簡単だけど上下に動くものを捉えるのは難しいのです。
野球でピッチャーは背が高いと有利と言われる、フットボールでヘディングを叩きつけるように教わるのはそういう利点からでしょうか。
心臓はどこにあるのか
きっと皆さんご存知、胸の少し左側です。
手を当ててみてください。
ドクンドクンと動いて生きていることを実感。さらんへよ
もう少し詳しく心臓の解剖学的な話をすると心臓そのものは心膜という2重構造の膜(筋膜組織)に包まれ、さらにその中で液体に満たされた空間にあります。
そして下は横隔膜、左右は肺があることによって超大切に守られています。
心臓のポジショニング
あらゆるスポーツにおいてポジショニングは重要です。それぞれの力を最大限に発揮できるポジション。これは人体においても同じです。
心臓はその中心と考えてもいいかもしれません。
位置的にはトップ下の心臓。2トップの肺。超アグレッシブな布陣。
当然ながら心臓は胸の中に浮いているわけではなく、
心臓を包む心膜と靭帯を介して骨やその周辺の臓器と繋がってその位置を留めています。
以下に代表的な靭帯を紹介します。
・Vertebropericardial ligament(椎骨心膜靭帯)
・Superior sternopericardial ligament(上胸骨心膜靭帯)
・Inferior sternopericardial ligament(上胸骨心膜靭帯)
・Phrenopericardial ligament(横隔心膜靭帯)
(Jean Pierre Barral, Visceral Connective Tissue Support System Pocket Guide,P9 より転載)
地球に引っ張られる心臓
上に紹介した椎骨心膜靭帯、上胸骨心膜靭帯が心臓を吊り下げている。
約250gの心臓は地球の持つ重力を受ける。
地球上では常に9.8m/s2の重力加速度がかかっているので靭帯がないと横隔膜というブラックホールに吸い込まれていく。知らんけど
どうやらこれらの靭帯は命綱らしい。
猫背のラビリンス
今までの話を踏まえて猫背になってみましょう。
頚椎は前弯が強くなり、胸椎は後弯が強くなる。ついでに顎は前に出ますね
おじいさんおばあさんの典型的な上半身の出来上がり。
すると椎骨心膜靭帯、上胸骨心膜靭帯は緩むので心臓は横隔膜に沈みます。
横隔膜は息を吐くと上がり、吸うと下がります。
常に息を吸ってしまっている状態に近い、と言えるでしょう。
どうでしょう、そこから息を吸おうと思っても吸える空気は少ないはずです。
こんな姿勢が続くとどうなるでしょうか。
椎骨心膜靭帯、上胸骨心膜靭帯は引っ張られた状態なので猫背は加速、胸の骨は引き下げられてペチャンコに。
横隔膜は下がって広がり、肋骨の下の方も広がる。(リブフレアという状態です)。
肋骨の下の方には腹筋たちがくっついているのでこれらの筋肉も弱くなっていきます。
すると横隔膜は上に上がる能力も失い、吸うどころか吐く力も弱くなります。
息を吐けない、吐く量が少ないと二酸化炭素は肺の中から脱出できません。
こともあろうに二酸化炭素は重いので肺の下部に溜まりやすい。
さらに追い討ちをかけるように肺の血流も肺の下部が一番多いので酸素と二酸化炭素の交換がしづらい環境が出来上がってしまっているわけです。
パフォーマンスの低下、さらに年齢を重ねた時の生命維持の危険性。
一度ハマると抜け出せない。
猫背がもたらす悪影響はまだまだたくさんあるんだけど、どれから書こうか迷ってしまうのでこのくらいに留めておきます。
まさに迷宮。
迷宮入りする前に
姿勢を正し、心臓を引っ張り上げるためのエクササイズをひとつ伝えます。
正座で座ってみます。(椅子でも可)
①顎を引いて胸の骨に近づけます。
(胸鎖乳突筋という筋肉を使う。頚椎の前弯を弱めるとともに、胸骨を引き上げる準備。)
(坂井 建雄監訳, プロメテウス解剖学アトラス, P292より転載)
②顎を胸に近づけたまま後頭部を後ろに引っ張ります。胸鎖乳突筋を収縮させておいて胸骨を引っ張り上げる。
(この時肋骨の下の方が上に上がってきてしまう人は口からふぅーーーーっと息を吐きながら肋骨を下に引き下げながら行ってください。)
③首を長く上に伸ばす。
(肩を下に下げるようにすると良い。胸鎖乳突筋の働きによって鎖骨も一緒に上がりやすいので)
以上。
背中がまっすぐになった感じがするでしょうか?
心臓引っ張れましたか?
腹筋に自然と力が入っているとgoodです!
あとがき
これを立った状態でもできるようにすると背骨のカーブが整って直立している感覚が掴めます。
古武術で一番最初に先生から教わった姿勢です。背中をまっすぐに立てる、と。
達人塩田剛三さんの写真を見ると背中ビンビンにまっすぐです。
先生曰く、この姿勢が整うと浮いているような感覚(力みなく上から引っ張られている)になる。
実はヨガでもこのようにまっすぐに立つ・座るとというのがとても重要で、産まれた経緯、国は違うものの良い姿勢の根本はほとんど同じだということに気づきました。
猫背になると心臓が落ちる、横隔膜が落ちる、それに伴って腹部内臓も落ちる。そこで固定されて機能低下。
この悪循環にならないよう今のうちから対処しておきましょう。