悲しい話は綺麗だから好きだ

魂の一番根っこでは救済を願いながら、その手前では全部を諦めて、ただ運命のままに堕ちていきたいと思っている
本当の願いを神は仏は閻魔様は聞いてくれなくて、嘘ばっかり叶う
できそこないの神様だ(だから本当は違う)
自分の人生の舵を自分で取っていくようなアメリカ映画の文脈を、自分はどこまで信じているのか分からない
ちゃっかり女までゲットするヒーローは、しらけるから嫌いだ
気難しくて嫌われ者の老人を、最後には好きになっちゃうような話も嫌い
報われない者は報われないまま、運命に絡めとられて、怖いからって逆に想像してた最悪の結末だけが本当になる
それが嫌なのか、望むのか、魂の何層目の話かが分からない

夢野久作「ルルとミミ」は、悲しくて美しくて好きだ
私が私に限定される前から知っている物語のような気がする
だから懐かしい
でも、懐かしく思うのは悪いことだと思う
やっぱり、アメリカ人のヒーローになれたらいいと思う(と思わされている)
ルルとミミを好きなのは、きっと私が弱い魂を持っているからだ


Zigeunerweisenぼくら鶏頭だった罰

知念ひなた 

第27回俳句甲子園の決勝で出されたこの句が忘れられない
どうしようもないような悲劇の最中に放り出されている、そんな予感を思い起こす

夏目漱石「夢十夜」で好きなのは、第三夜だ
自分がしでかした罪の大きさは忘れていても、ずっと背負ってしまっている
皆の繋がる夢の話だから、私もそうなんだ

宮澤賢治「貝の火」が怖いのは、悪行をしたからと言ってその罰がすぐには下されないからだ
すぐにバチを当ててくれる神様がいたとしたら、それは優しいんだ
それは人間なんだ
でも、本当の生活は、どんなに教えに背いたって、最低のことをしたって、日常は何も変わらなくて、不幸になるのは来世かもしれない
人間ごときでは到底わかりようのない、超越した存在なのだから、怖い
こんなに怖いことが、大して大事件でもなくあって、そこにほら、生きているんだからより怖い

大きな存在に身をまかせるのは、そうする他ないからだ
諦めなのか、そんな態度は良いのか、悪いのか、それの全部で、だからどうしようもない



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