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『Eastward(イーストワード)』良きドット

※ネタバレ有

■作品概要:狂気のピクセルアートで描かれたアクションアドベンチャー
■公式サイト:https://eastwardgame.com/
■クリア時間:30時間くらい

ドット絵で描かれたゲームが好きです。

 リアルな描画ではできない外連味のある演出、明確な輪郭を持たないからこそ膨らむ想像、そしてなによりあのノスタルジックな雰囲気。
 ヌルヌル動けばそれだけで嬉しい、独自の世界感があれば更にいい、ユニークなキャラがいれば尚更いい。

 そんな折、Eastwardを知りました。

 どうもこのEastward、短くとも6年以上開発に費やされた、謂わば「狂気と執念のドットゲーム」と知られているらしいのです。

 この記事は、インディーワールドで紹介された時から目をつけてはいたものの、後回しにしていた本作をプレイした感想を、備忘録がてら綴るものとなります。

『Eastward(イーストワード)』とは

――今から遠くない未来。
あらゆる物を崩壊させる「タタリ」と呼ばれる瘴気が世界中に広がり、生き残った人々は地下に村を作りながら生活をしていた。

そこで暮らしていた無口で心優しい男「ジョン」と不思議な力を秘めた少女「珊(サン)」は、あることをきっかけに外の世界への冒険に出発する!

崩壊した世界に残された唯一の列車へと乗り込み、2人が見たこともない景色が広がる場所を冒険しよう。そこには、忘れられない出会いと恐ろしいモンスターたちが待ち受けている…。

さまざまな困難を乗り越えて、すべての元凶となったタタリやジョンと珊に秘められた真実を見届けよう!

”生きたドット”が織りなす

 本作最大の特徴の一つであるドット。ピクセルアートとも呼ばれているEastwardのデザインは凄まじいです。

 まず緻密、装飾の一つや壁の汚れに至るまで欠落一つなく描かれており、重要度の有無に関わらず等しく100%の熱量で作られた世界は、かけられた時間に納得する程の出来栄えと言えるでしょう。

年を経るごとに緻密になっていく

 デフォルメチックなデザインだからこそできるユニークなキャラクター達、滑稽味のあるモンスターたち、美味そうな食事。それらはEastwardの世界感を一段も二段も引き上げているように感じます。

 しかし何よりも特筆すべきは、そのドット表現がイラストのような美しさに留まらず、そこに生きているかのような変化に満ちている事です。

 これは制作会社のPixpilが挙げている動画です。
 注目して欲しいのは動く換気扇やサインポール、歩く主人公であるジョンと珊です。

 長身の大人であるジョンがゆっくりと歩いているのに対し、幼い珊は小走りに追いかけています。かわいいですね。
 こういった実際の歩幅を考えるとありうる違いや、他にも現実ならありうる細やか変化が随所に盛り込まれている訳です。

 机に乗る料理は日を跨ぐと変化し、天候や時間帯によって明かりが灯る建物性や揺れる草原は、ただの雰囲気づくりのオブジェクトに留まらない魅力を生み出しています。

時間帯によって外観が変化する。

 こういった流動的な変化にはドットのみならず、プログラミングによっても起こしているらしく。現代技術との融合を感じられます。

作は普通のドット絵ゲームではなく、今どきのプログラミング技術を最大限に活用して作ったゲームです。中でも光の表現は特に意識していて、プレイヤーに臨場感をもたらすため、ストーリーの状況とキャラクターの心情をマッチさせるように調整しました。例えば、霧の中にいる表現や地下水道にいるときの光と影などです。

『Eastward(イーストワード)』ドット絵インタビュー – Nintendo DREAM WEB (ndw.jp)

詰め込まれた様々な遊び

 Eastwardのゲームシステムは癖なくまとまっています。

 逆を言えばそれ自身は大きい魅力足りうるものではなく、あくまでも丁寧な作品という立ち位置に留まっています。
 珊が敵を拘束するなどの特殊な行動が出来たり、爆弾によるギミックといった仕掛けめいたものはあるものの”一時的に時間を止められる”や”手に入るアイテムが変化する”などといったそれ自体がゲームの柱になるようなものではありません。

 本作はそもそも、そういった趣旨のゲームではないのです。

丁度良い歯ごたえのバトルバランス

 ならば何なのかというと、本作のテーマはバラエティー勝負。様々な仕掛けが至る所にちりばめられています。

 壊れる、燃える、押せる、灯すといった、色々な反応をするオブジェクトたちやそれを用いたギミックの数々。諸々の道具や能力を駆使したトップビューの探索、つくった料理がいい感じに役立つ戦闘。

 そして何より所々に差し込まれるミニゲームがゲームプレイを飽きさせません。

 蟹の収穫、風船豚集め、バッティングセンター、的当て、料理パチスロ。一つ一つの出来が良く、程よい息抜きとしても作用しています。

 そしめ数あるミニゲームの中でも一押しなのが、随所にあるテレビで出来る『大地の子』です。 

 ドラクエチックなゲームシステムに、ランダムに変化する仲間たちの能力や装備品・7日間の時間制限が加味することで、これ単体として売り出しても遜色ない出来栄えになっています。

最後までプレイすると達成感も一入

 考えた組み合わせがハマると本当に面白く、私は『かばう』をつかえる身代わり騎士と行動時にAP回復が出来る『ねつじょうのペンダント』による無限AP回復コンボで魔王を蹂躙するのが爽快でした。

 ついでに、クリアする際に大変お世話になった記事があるので勝手に紹介しちゃいます。

ユーモアのあるセリフ回し

 バグ・フェイブルズがペーパーマリオシリーズ、クリステイルズがペルソナ等のJRPG、ホロウナイトがメトロイド・キャッスルヴァニアのエッセンスを取り込んだように、本作は多くのインディーゲームと同様に過去に愛されたゲームの魅力が多分に含まれています。

 Eastwardで最もそれを感じるのは『MOTHER』でしょう。
 憎み切れない悪役や、ひょうきんなキャラクター、彼らを彩るイベントがそれを物語っています。

 会話の一つ一つにユーモラスな雰囲気があり、シリアスな雰囲気の中にすらある可笑しみは、ぼんやりとしかMOTHERを知らない私ですら『MOTHERらしさ』を感じる程でした。

韻の良いセリフ。ローカライズが上手い
ギャンブルにハマりすぎないでね……

 派手でオネエなジャスパーや裏の顔を持つトーマス達、お茶目でユニークなキャラクターはEastwardを更に魅力的にしています。



気になった点

見かたが分からないストーリー

 本作のストーリーはMOTHERのような滑稽味のある部分があるのと同時に、人死にが多いシリアスな一面を合わせ持っています。

 これ自体は決して悪いものではないのですが、極端にその割合が揺れ動く部分があります。

 第一章であるポットクロック島を出た後にたどり着くグリーンバーグでの一連の流れは特に描写不足が特に目立ち、その後の冗長さも考えると必要だったか疑問なほどです。

 常に魅力的なテキストに対し、シリアス⇔コメディ,雰囲気重視⇔ストーリー重視の振れ幅は大きすぎ、リアリティラインの設定に失敗しており「誰も死なないギャグ時空的なゲームだと思ってたら唐突に村が滅んだ」という現象は”思ってたんと違う”感を感じてしまう人がいてももおかしくありません。

 この部分を「意表を突かれた」と感じるか「期待を裏切った」と感じるかでストーリーの評価は二分されるように感じます。

本作のピークはここだったと思う

 私個人としては1章の雰囲気を維持できていればもっとよかったのになあ、と思っています。

定期的に起こるクラッシュ

 小規模開発のゲームではよくある話ではありますが、本作は定期的にクラッシュが起きてしまいます。
 オートセーブが頻繁に行われるため戻し作業を行う必要などは無いのですが、強制終了が4~5時間おきに起こり、熱が冷めてしまう瞬間がある為注意する必要があります。

終わりに

 ドットが何より素晴らしい作品でした。

 しかし、個人的にはかわいい珊ちゃんと、大地の子がお気に入りになったので、是非良さを味わってほしいです。

 クリア後にチャプターセレクトも解禁されるので、またポットクロック島に行ってみようかな……

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