書評「柳田理科雄/空想科学読本」 夢を壊して、愛を語る
空想科学読本シリーズに出会ったのは中学生の時。ウルトラマンや仮面ライダーのようなおなじみのヒーロー、宇宙戦艦ヤマトやマジンガーZなどの有名なアニメの世界を、科学的に実現可能かを検証していく人気シリーズだ。
今回手に入れたのはその角川文庫版。シリーズの1冊目を文庫にしただけかと思いきや、シリーズ全体の中から厳選された原稿31本を加筆修正して収録している。いわば、新録のベスト盤である。
ウルトラマンは3分で本当に地球を守れるのか。「お前はすでに死んでいる」とは科学的にどういう状態か。ドラマ「SPEC」の超能力は本当に便利か。「ONE PIECE」に出てくる技「月歩」は実現可能か。「猫ピッチャー」のように猫に野球はできるのか。時速3000kmで走る「エクシードラフト」のマシンは可能なのか。不朽の名作、最新作、話題作、マニアックなネタ、千差万別に網羅している。
切り口も様々で、音速で飛ぶウルトラマンと衝撃波の関係、ラピュタの飛行石の原理、サザエさんじゃんけんに連勝できる確率、デスノートで人類滅亡をもくろむとどうなるか、ショッカーの作戦の実現性などなど。物理学、自然現象、化学、生物学、数学と様々な観点から分析していく。
帯にはこう書かれている。「夢を壊してベストセラー!」。確かに、科学が導き出す結論はシビアで、マジンガーのロケットパンチは1センチもとばず、キャプテン翼のスゴ技は時間がかかりすぎて試合では使えず、ウルトラマンが音速で飛べば体が裂ける。シリーズが始まって25年、特撮、アニメ、マンガ、映画と、片っ端から夢をぶち壊してきた。
だけど今回、このベストアルバムともいえる本書を読んで感じたのは、著者・柳田理科雄の空想科学への愛である。
元々、塾の先生だった柳田理科雄。シリーズの根底には「子供たちに科学の面白さを伝えたい」という、科学への限りない愛が流れている。
そのために選んだ題材が、特撮やアニメだった。「夢を壊して」といいながらも、ところどころにウルトラマンやマジンガーZに夢中だった柳田少年の姿が垣間見れるし、新しい作品でもその作品に対する理解は深い。見方を変えれば、オタクが好きな作品を突っ込みながらも熱心に語っているようにも見える。
柳田理科雄は1961年の生まれ。いつの間にか還暦を越えたのね、と思いつつも、この時代は高度経済成長期の少し前。「理科雄」という名前に科学への期待が込められているように、まさに科学の進歩を目の当たりにしながら育ってきた世代だ。同時に、特撮に慣れ親しんできた世代でもある。初代ゴジラの登場が7年前の1954年。1966年にはウルトラマン、1971年には仮面ライダーが登場している。
日本の科学にとっても、特撮・アニメにとっても、現代の礎を築いたと言える60年代70年代に少年時代を送り、科学とヒーローに青春を燃やした柳田理科雄の空想科学への限りない愛が詰まっているのだ。
(シミルボンより転載)