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脳内おかまインストラクターの話

仕事が忙しくなると、どうもあらゆることが後回しになる。使った食器はシンクに溜まり、未読の郵便は床の上で雪崩を起こす。

家のことだけでなく、自分のことも行き届かなくなる。

疲れてメイクを落とさずに寝てしまうし、ふと自分の手元を見て、すくすく育った たくましい指毛にヒいてしまう。
私の中の女の部分が、どんどん死んでいくのだ。ただでさえ多くないのに。

飲まれるような忙しさの中、やっと迎えたお休み。
朝一番におかまの声がこだまする。

「ちょっとォ〜!アンタまたお風呂入らないで床で寝て〜〜!しかもメイクしたまま!ハイまた死にました〜!アンタの女の部分が死にました〜!!!」

彼女は女子力インストラクター・ともよちゃんだ。ともよちゃんは私の脳内に住むおかまだ。女子力に関してハチャメチャにうるせぇし、物理的にもハチャメチャにうるせぇ。

ともよちゃんに従い、カピカピになったメイクを落としてシャワーを浴びる。サボンのスクラブでお肌をぴかぴかにする。お風呂上がりはもちろんシェーバーでむだ毛を一掃する。
「アンタ脱毛行くのもサボってるでしょ!?!?アタシより毛多いわよ!!!」
さすがにともよちゃんみたいに夕方に青ヒゲは生えないよ
「おだまりッ!!!!」

身体が重い、と言うと、ともよちゃんが私の好きなサンダルウッドのお香を焚いてくれる。(という体で自分で焚く)
ついでに沸かした白湯を飲み終わる頃には、いくらか疲れが取れていた。やっぱりちゃんとお風呂に入って布団で寝なきゃなと思う。

「彼と最後に会ったのはいつ?」
うーん、こないだの日曜かな
「1週間以上経ってるじゃないのぉ〜〜〜!」
連絡もしばらくしてないや、眠くて
「断罪〜〜〜〜〜!!!」

お腹が空いた。朝ごはんを食べないままお昼を迎えてしまった。ランチも、ともよちゃんプロデュース。白米は少なめに、人参のきんぴらと玉ねぎのレンジ蒸し、豆サラダと水餃子もおまけに付ける。あぁ豊かだな、と安心する。平日の残業終わりに食べるジャンクフードとは、わけが違う。

私が女子力を取り戻すにつれて、ともよちゃんは段々と静かになる。そうそう、それで良いのよと満足そうに黙って私を見つめる。

彼女くらい強引なインストラクターがいないと、私は女であることを忘れてしまう。
自分を綺麗にしてあげること。大切にしてあげること。仕事なんかよりよっぽど優先しなきゃいけないことなのに、なんでか忘れちゃうんだよなぁ。

そうして私が急に彼に会いたくなって、こっぱずかしいラインを送る頃には、ともよちゃんはいつの間にか居なくなる。

でもね、ともよちゃん。
また数日したら、どうせメイクしたまま寝ちゃうよ。ムダ毛のお手入れもサボるよ。彼への連絡も忘れちゃう。

だからまたその時はよろしくね、ともよちゃん。私の女子力は、口うるさいあなたにかかっているのだから。

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