デート記録〜築地・銀座編〜
衝撃だった。ここは日本か?と疑った。
築地本願寺の写真を目にした時の感想だ。
急いで彼に連絡を入れた。
私の発言がIQ2くらいなのは置いといて、とにかく興奮が収まらない。
私は、普段の生活とは異質な場所が好きだ。日常からかけ離れていればいるほど良い。
一瞬で昭和にタイムスリップできる純喫茶や、まるで建物の中を切り取ってイスラムの国を当てはめたような東京ジャーミィが好きだ。
だから、インド様式の仏教寺である築地本願寺は、私の性癖にクリティカルヒットしたのである。
▲おととし訪れた訪れた東京ジャーミィ
月曜日、午前11時。
偶然にも私と彼の休みが合った。
築地市場駅のA1口から私たちのデートは始まった。
場外の鈴木水産というお店に入った。私はマグロ中落ち+ウニ丼を、彼は三点盛り丼を食べた。「多分メニューの中でこれが一番エリート」と言いながら注文を決めた彼に、店員さんは笑っていた。
築地市場は今年の10月に、場内だけが移転するらしい。移転どうこうニュースで騒がれていたのはいつ頃だったっけ。こちらがすっかり忘れている間に、いつの間にやら決着がついていたようだ。
せっかくだから場内も覗いてみたが、業者の人々の姿はまばらだった。きっと今頃がお昼休憩なのだろう。それにしても、あまり観光地感の無い殺伐とした場所だ。邪魔にならないよう、恐縮しながら歩く私たちとは裏腹に、外国人観光客は、陽気に写真を撮りながら楽しんでいるようだった。
そうして向かうは本願寺。
実際に外観を見ても、日本の景色とはにわかに信じられなかった。
開けた扉から、冷気と一緒にお香の匂いが流れ出る。
椅子に座ってぼーっとお経を聞いていた。
低くて抑揚のない声が心地よく、「近所にあったら1日中居座ってるな」と思った。まるで熱心な信者のようだ。
お寺の地下にレストスペースがあったので、そこで涼みながらまたぼーっとした。
彼と何か色々話した気がするが、全く思い出せない。それくらい他愛のない話をした。
場所を変えて、東銀座へ。
歩いても行ける距離だが、この日の気温は33度。じりじりとした陽射しは、10分でも歩くことを躊躇わせた。迷わずメトロに乗り込む。
東銀座の駅と歌舞伎座は直結している。予定にはなかったが、吸い込まれるように入っていった。歌舞伎で使われる小道具の展示があった。実際に触れて、写真を撮って楽しもうという趣旨の企画展だ。
平日の昼間に若いカップルが来るのが珍しいのか、スタッフの方が色々声をかけてくださった。
彼といると色々な人から声を掛けられる。
「多分、自分1人だったらこんなに話しかけられること無い」と、彼は私によく言う。私は知らない人からそこそこ声を掛けられる方だけど、彼といる時はもっと頻度が上がる。気がする。
2人並んだ写真も撮ってもらった。思えば、これが初めてのツーショットだ。嬉しくて恥ずかしい。撮ってくれたスタッフの方に、「年賀状にも使えますね」と、まるで夫婦にかけるような言葉まで頂いた。ますます恥ずかしい。
歌舞伎座の裏の、樹の花という純喫茶に入った。ジョンレノンとオノヨーコも訪れたという。
窓際の席に座った。シフォンケーキが美味しかった。備え付けの雑誌から、今後行きたい純喫茶をいくつかピックアップした。
私は恋人といる時、あまり口数は多くない。彼はというと、時々思い出したかのように、ポツリポツリと音楽の話をする。
彼の関心の大部分を、音楽、特にジャズが占める。私が少しだけジャズをやっていたからか、彼は真剣に音楽の話をしてくれる。恐らく、他の女の子に話しても通じないような話を。私はそこにたまらなく優越感を感じるのだ。
調子に乗って新宿まで行き、映画を観た。
ハン・ソロは私の永遠のヒーローだ。劇場の出口までのエスカレーターを下る間、私は興奮気味に感想を述べた。
「あのシーンはカッコいい」
「ワイルドだわ……」
タクシーで彼の家に帰る間も、それは続いた。
家に着く。簡単に自炊を済ませ、とびきりイチャついて眠りについた。
なんてことだ。彼と1日一緒に過ごしてしまった。なかなか休みが合わないあの彼と。1日を振り返って、余すことなく幸せだったことに驚いた。次はどこへ出かけよう。
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