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イェレシュ・アンドラーシュ『Little Valentino』ハンガリー、大金は手にしたけれど
バラージュ・ベーラ・スタジオ出身として、同世代のブダペスト・スクールに多大なる影響を受けながら、独自の路線を取り入れた初長編にしていきなり時代を席巻したイェレシュ・アンドラーシュ。今となっては後年の『受胎告知』や、息子ネメシュ・ラースローの方が知られているが、ハンガリー映画史を語る上で絶対に外せないほど重要なのが本作品。2000年に発表されたハンガリー映画20世紀ベスト、通称"ブダペスト12"に選出されている。農協職員の青年ラースローが、預かった大金を横領して街に繰り出し、ただ只管に行く先々でそれを使いまくる話なんだが、初めて手にした大金を前に具体的な"浪費"を思い付かず、近い距離でタクシーに乗りまくったり、高いタバコを買ったり、劇場で映画を観たり、高級レストランに行ってみたりと目の届く範囲で空虚な時間を消費していくのが妙にリアル。
全編通して台詞の一部や人物の思考、状況説明が画面内に字幕として引用されるという奇妙な演出が、しょうもない発言を格言のように見せてくれる。後半は演出家が変わったかのようにジャンプカットが多用される。しかし、いくら金を持ったとしても、格式高い発言のように見てくれを整えても、根本が変わらなければ何も変わらないという悲しい事実を提示してくる。全体的なタッチの軽やかさに反するように、ブダペスト近郊で物語が完結してしまう閉塞感が素晴らしい。
監督はフサーリク・ゾルタン『Sinbad』に多大なる影響を受け、本作品はタル・ベーラに追随する90年代の映画作家たちの作風の源流ともなった。
・作品データ
原題:A kis Valentinó
上映時間:93分
監督:Jeles András
製作:1979年(ハンガリー)
・評価:80点
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