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George Schnéevoigt『Laila』フィンマルクにおける少女の運命、或いは雪上のウエスタン

イェンス・フリースによる同名小説の映画化作品。"死ぬまでに観たいノルウェー映画101本"選出作品。フリースはサーミ語研究の創始者であり、本作品もフィンマルクを舞台にしている。ノルウェー映画史の黎明期における映画の重要な立ち位置はラスムス・ブライスタイン『The Bridal Party in Hardanger』の記事で触れた通りだが、フィンマルクにおけるサーミ人とノルウェー人の対立と融和を描く本作品もまた"ノルウェー的アイデンティティの獲得"という意味で重要な作品になっただろうことは想像に難くない。本作品の主人公はノルウェー人少女ライラである。しかし、最初の1時間位は物心が付かないくらいの年齢なので、実質的な主人公は彼女の育ての親の一人Jåmpaと言えるだろう。冒頭で洗礼を受けるためにド田舎から都市部までトナカイ橇で移動していたノルウェー商人リンド一家は、狼に襲われて赤子を見失ってしまう。赤子は地元の金持ちアスラクとその雑用係Jåmpaに拾われる。アスラクもJåmpaも如何にもサイレント映画の悪役的な顔の人物なんだが、赤子がリンド家の娘だと知ると律儀に返しに行ったり、逆にリンド家が疫病で亡くなると肉親のいないライラを引き取りに行ったりと思慮深い人物として描かれているのが印象的だ。

すくすくと育ったライラはノルウェー人の血を引きながらサーミ人としての生活をしており、アスラクもJåmpaも彼女の出自を隠している。そのせいで、一緒に育ったアスラクの養子メレットはライラに恋していて、結婚間近という状態にまで至っている。ライラは街にやってきたリンド家の甥っ子アナスに、そうと知らず恋をしてしまい、関係性がこじれていく。この後半では、主にメレットを中心に"ノルウェー人はサーミ人が嫌いだし逆もそう"という言葉を乱発し、ライラとアナスとの対立を煽ろうとしている。しかし、この言葉は特大ブーメランとしてメレットの頭に刺さっていることを本人は自覚していない。つまり、そういった思想が端から無意味であることを暗に指摘しているのだ。加えて、思慮深い人物として描かれているJåmpaは、ライラの幸せを願って行動に出るなど目先のロマンスを引き立たせるためだけの描写にならず、終始一貫しているのが心地よかった。その分、一人で悪役をこなしていたメレットくんが哀れで、多分あのまま平和な空気感に潰されてグレると思う。

冒頭の狼に追われるシーンを含め、トナカイ橇のシーンはどれも躍動感に満ち溢れていて素晴らしい。どこか西部劇の追走っぽいんだが、橇を引っ張ってるトナカイにカメラを置いているせいで橇の部分と後景が見えている状態なので、どちらかというと『スターウォーズ』のポッドレースに近いものを感じる。親戚と知らずに恋するとか…もしかして原典の一つですか?

・作品データ

原題:Laila
上映時間:165分
監督:George Schnéevoigt
製作:1929年(ノルウェー)

・評価:80点

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