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フランチシェク・ヴラーチル『Serpent's Poison』向き合えない、だから酒を飲むという地獄の悪循環

大傑作。フランチシェク・ヴラーチル長編11作目。ヴラーチルは1960年代から製作中は酒浸りになることで有名だったらしく、『マルケータ・ラザロヴァー』(撮影に3年かかってる)を撮った後なんか相当酷かったらしい。結局、彼の飲酒グセは死ぬまで治らず、家族や友人を多く失った。そんなアルコール依存症についての自身の経験を描いたのが本作品である。主人公は高校を卒業したばかりの少女ヴラデンカ。1年前に母親を亡くした彼女は、疎遠になっていた父親を尋ねて田舎町を訪れる。そこには夢破れて酒浸りになり、しかし未だに"エンジニア"と呼ばれる父がいた。キャリア初期の作品を思い出しながら撮ったのか、『マルケータ・ラザロヴァ』等の作品に見られたような正面から顔を撮るショットが随所に挿し込まれているが、そのどれもが映っているヴラデンカの控えめな微笑みそのもののように、ぎこちなく遠慮がちで、まるでヴラーチル自身の自信のなさをそのまま表しているかのようだ。正面からヴラデンカを捉えたショットは美しいので、ここで言う"自信のなさ"は映画製作に対するものであり、皮肉にも本作品の力強さと物悲しさは、ヨレヨレになったキャリア後期でさえパワーがあったことを示している。また、正面から捉えられて我々と目線が合うのはヴラデンカだけで、父親は正面を向くことも正面から捉えられることもないのは、ヴラーチルが娘(…がいたのかはよく分からんので広義家族、或いは映画製作そのもの)に正面から目を向けられないのを、カメラで代わりにやっているかのようでもあり、その不器用さにも泣けてくる。そして、正面を向けないからこそ酒を飲んでしまうわけで…ラストの絶望感は地雷原に突き進む『アデルハイト』の絶望感に重ねられているのだろう。

・作品データ

原題:Hadí jed
上映時間:87分
監督:František Vláčil
製作:1982年(チェコスロバキア)

・評価:90点

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