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アティナ・ラシェル・ツァンガリ『アッテンバーグ』奇妙な波、その起源と奇妙さ

"ギリシャ奇妙な波(Greek Weird Wave)"という響きの良い名前を持った奇妙な映画たちは、日本ではヨルゴス・ランティモスしか知られていないし、彼もその文脈で紹介されたわけではない。その起源となったと言われるのが、ランティモス製作のもと、アティナ・ラシェル・ツァンガリが撮ったこの奇妙な映画『アッテンバーグ』なのだ。ランティモスはこれよりも前に『Kinetta』や『籠の中の乙女』を撮っており、既に若手の中では群を抜いて有名だったことだろう。彼はエンジニア役で出演もしている。主演はその未来の妻となるアリアン・ラベド。

病気の父親と暮らす工場勤め23歳のマリナ。男性経験がなさすぎて、親友のベラとキスの練習をするという強烈な冒頭が印象的だ。ベロベロベロベロ。いやもうそりゃキスじゃねえよってとこまで到達し、舌のじゃれ合いは顔の運動となって全身に伝搬し、二人は奇妙な動きをしてじゃれ合う。運動が本作品のキーになっていることは確かで、運動と静止を繰り返す二人を追うカメラも運動と静止を繰り返す。

マリナの性経験のなさと相対するように、男と奔放に遊ぶベラが配される。互いに軽く軽蔑しつつ不思議な師弟関係を築く二人の"愛情表現"は、互いの身体を使った"運動"で表現される。そして、ベラから学んだことをエンジニアの男に実践することで性の階段を駆け登って、子供時代へのお別れを告げるのだ。

翻って、死の床に伏せる父親は、それにベッタリな娘と短いやり取りを交わし続ける。同じような発音の連想ゲーム、アッテンボローの自然ドキュメンタリーに登場した動物のモノマネ、互いの名前を呼びあう。キスやら唾吐きやら雄叫びやら、他の映画以上に口の役割にスポットが当たる。二人は父親が死に近付いていることを、そういった"対話"で受け入れていくのだ。こうして語られる親からの解放と子供時代への決別というテーマは非常に"奇妙"であるが印象的なものとなっている。

・作品データ

原題:Attenberg
上映時間:97分
監督:Athina Rachel Tsangari
公開:2010年12月9日(ギリシャ)

・評価:80点

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