アルノー・デプレシャン『ルーベ、嘆きの光(ダブル・サスペクツ)』そして、ひとすじの光...
フランスでもかなり経済状況の悪い地区であり、デプレシャンの故郷であるルーベ。その治安を維持しようと奮闘するルーベ警察の面々と、彼らを束ねるカリスマ的署長の捜査風景に溶け込む映画といえる。カンヌは実録警察モノが好きらしく、同じコンペにも『レ・ミゼラブル』があり、最近観たので覚えているのは2011年の『パリ警視庁:未成年保護部隊』があった。新人刑事がルーベ警察に来て、厳しい現状に成果を上げられず凹むというクリシェは『レ・ミゼラブル』と被っているし、そのクリシェを使って先へ行ってしまった同作と並んでいるとなると、クリシェをクリシェとして使っている本作品は既に鈍らに見えてしまうのは否めない。そして、移民問題や性犯罪などに薄く切り込みながら結局レア・セドゥとサラ・フォレスティエという二大女優の演技を眺める方向にシフトしていくのは、題材の重さに反してそれぞれの扱いの軽さを"そうとしか出来ない"として描く『パリ警視庁:未成年保護部隊』と比べても見劣りしてしまう。
警察なんて時事問題の最前線にいるから、彼らの仕事風景を描けば社会批評をしていると言えるという甘えさえ見え隠れする。レア・セドゥの息子を登場させなかったのは良い判断だとは思うが、それ以外は実に凡庸で、正直コンペに並ぶレベルの作品ではないと思う。残念。
※追記
『ダブル・サスペクツ』という邦題でソフト化されるらしい。『ルーベ、嘆きの光』という邦題が気に入っていたので殊更残念。
・作品データ
原題:Roubaix, une lumière / Oh Mercy
上映時間:120分
監督:Arnaud Desplechin
製作:2019年(フランス)
・評価:40点
・カンヌ国際映画祭2019 その他のコンペ選出作品
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