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フランチシェク・ヴラーチル『Magician』ヴラーチルの"内省"と走馬灯

フランチシェク・ヴラーチル最後の長編作品。25歳の若さで亡くなったチェコの詩人カレル・ヒネク・マーハの生涯に緩く基づいている。冒頭でマーハはローリという女性と結婚を控えており、詩人生活を止めて公証人として働き始める決意をする。しかし、結婚式当日に現れた弟のミハエルは、兄カレルは死んだと伝える。そして映画はカレルとローリの出会いまで遡り、これまでの日々を思い返す…わけだが、思い出さないほうが良かったかもしれない。カレルは傲慢、無愛想、異常に高いプライドの中に生きており、特に純真無垢なローリに対して虐待的な態度で接し続けているからだ。また、彼の記憶の中には、彼の詩のファンという病弱の少女マーリンカのことも含まれていて、その"自分のことを最も理解する天使"のような姿には、これまでのヴラーチル作品における"俺は本当な凄い人なんだ"という主人公たちをまとめて包み込むようなグロテスクさがある(すぐに病没して退場するのでそこまで悪感情は抱かないけど)。そんな感じで詩人の自由で自分勝手な創作活動を象徴するように、限定されない場所で展開される、走馬灯のように幻想的な挿話が脈絡なく連なっていく。中でも自分と同じ名前と風貌の殺人者を幻視する挿話は、詩人の内面と外面の対比のようで、"内省"というヴラーチル的テーマとして考えると、ここまで露骨に映像化したのは初めてだったので興味深かった。それは"過去と未来しか持たない"とする詩人の思想とも重なってくる。しかし、直接的な映像になったとはいえ、詩人の内面と外面やそのギャップを深く描いているわけではないので、結局魅力に欠けているのが残念。まるで内省する人間ではなく、内省そのものに興味があるかのような空洞感。

主役の二人以外の脇役はこれまで組んだことのあるベテランたちを多く配役していて、映像や物語構造を転換させることに対して、キャストやスタッフを安心できるようガッチリ固めたという印象。しかし、ヴラーチル自身は本作品の完成形に対して不満を抱えていたようで、この芸術的な敗北によって監督業を引退することになる。散々イデオロギーの対立を描いてきた監督の遺作が、主人公死亡で死後評価という映画なのは、どこまでも運命的なものを感じてしまう。ビロード革命以降も、チェコ映画アカデミーの会長に就任したり、様々な映画祭でリバイバル上映がされ、様々な賞を受けたりと映画と縁が切れたわけではなかったのだが、結局映画は撮ることなく、本作品公開の11年後にあたる1999年に帰らぬ人となった。

・作品データ

原題:Mág
上映時間:87分
監督:František Vláčil
製作:1988年(チェコスロバキア)

・評価:70点

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