
パヴェウ・パヴリコフスキ『COLD WAR あの歌、2つの心』困難な時代の運命の愛について
超絶大傑作。素晴らしすぎて全シーン思い出せる。前作『イーダ』で世界&私を熱狂させたパヴリコフスキの最新作。紙芝居のようにスルスルと無情に話が進んでいき、音楽や画面構成が神がかっているいつものパヴリコフスキ映画。ポーランドの中で内省的な物語を展開した前作とは打って変わって、冷戦期の欧州を駆け巡る運命の恋の物語。ショットが神がかっていた『イーダ』に"音楽"という更なるパワーが加わって、本当に当世最強の映画監督となってしまった!ショットのパヴリコフスキが音楽を持った、まさに鬼に金棒じゃないか!
1949年ポーランド。郷土音楽を収集していたヴィクトルとイレナは音楽学校Mazurekを設立し、純粋に音楽を表現する集団として彼らを育て上げるが、時代の波に飲み込まれてソ連礼賛ソングを歌う羽目になる。そんな中、奔放な生徒ズラに恋をしたヴィクトルは20年近く、舞台を欧州各地を転々と変えながら、結ばれることのない"運命の愛"を育むことになる。
と話はいつも通り大仰ではないし、正直大したことないんだが、前作にも増して音楽がふんだんに盛り込まれたことで映画そのものの感情表現が非常に豊かになり、画面の静謐さやモノクロの画面と融合する三つめの作用を得た。これによって破壊力が『イーダ』に比べて格段に上昇し、我々の感情を揺さぶりまくる。やがて互いを傷付けあうことでしか互いの愛を確かめられなくなったふたりは喧嘩別れと再会を繰り返す。ラストは最早必然となった永遠の"別れ"であり"再会"でもあるのだ。泣いた。
ズラのファムファタール感が素晴らしい。モノクロ映像にするから一人だけ異質であることを際立たせるためにブロンドの女優を選んだのだろう。彼女自身は『イリュージョン』以降のパヴリコフスキ作品に毎回登場しているが、今回の主役への抜擢なそんな点もあるんじゃないか。
どうやったらこんな作品が出来るのか。弟子入りするしかないか。
・作品データ
原題:Zimna wojna
上映時間:89分
監督:Pawel Pawlikowski
公開:2018年6月8日(ポーランド)
・評価:100点
・カンヌ国際映画祭2018 その他のコンペ選出作品
1. ジャファル・パナヒ『ある女優の不在』時代を越えた3つの顔、或いはパナヒ的SF映画
3. ジャ・ジャンクー『帰れない二人』火山灰はいつも最高純度の白色だ
4. ステファヌ・ブリゼ『At War』誰かのピンぼけ後頭部を愛でる映画
8. ナディーン・ラバキー『存在のない子供たち』大人の勝手な都合に抗う決意を下すまで
9. パヴェウ・パヴリコフスキ『COLD WAR あの歌、2つの心』困難な時代の運命の愛について
15. ヤン・ゴンザレス『Knife + Heart』ゲイポルノ界隈から覗くマイノリティの感情
16. キリル・セレブレニコフ『LETO -レト-』統制社会を皮肉るロックMVという映像のアナーキズム
いいなと思ったら応援しよう!
