見出し画像

サリー・ポッター『選ばなかったみち』ごめんパパ、何言ってるか分からないよ

21世紀のミューズとも言える皆大好きエル・ファニングの最新作は、サリー・ポッターの最新作としてベルリン国際映画祭に登場した。ポッターの作品は四度目の登場となるが、やはりエル・ファニングの人気もあって比較的早くから注目度が爆上がりしていた作品だったのは記憶に新しい(蓋を開けてみるとそこまで評価は高くなかった、というとこまでがワンセンテンス)。本作品は精神障害を患っている男レオとその娘モリーのある一日を描いている。レオの精神状態は分裂していて、初恋相手ドロレスとの結婚生活、ギリシャでのバカンス生活など可能な限り憶えている記憶を繋いで作られた実在しない記憶を幻覚として見続けており、"意識の流れ"のように現実にも度々介入してくる。ドロレスとの結婚生活は二人の息子の死によって破綻しかけており、これは何年も前に別れたモリーの母との結婚生活を暗示している。また、ギリシャでの作家生活はモリーと同じくらいの年齢の女性が登場し、幼い頃に引き離されたモリーとの関係を暗示している。

そこで終わってしまえば技工だけの映画だが、本作品は幻想であるはず(つまりレオが生き続ける限り永遠につづくはず)の挿話にオチまで付け、ご丁寧に答え合わせまでした挙げ句、モリーに"なんて言ってるか分からん"と毎回言わせることで逆にどうでも良さが際立ってしまう。また、途中から現実を幻覚が乗っ取り始めるという描写のために、現実への"介入"が無くなっていき、挿話と本編との繋ぎ目がメチャクチャになっていくのだが、これがあまり上手くいっているとも思えない。つまり、技工だけの映画ですら無くなってしまい、小説でも書いてろ以外掛ける言葉を失くしてしまう。

"誰がなんと言おうと貴方は貴方よ"という聞き覚えのある文句が、このくだらない映画の最後をまとめるように、エル・ファニングの口から出てくる。私は頭を抱えてしまった。映画にする必要がないと思う。残念。

画像1

・作品データ

原題:The Roads Not Taken
上映時間:85分
監督:Sally Potter
製作:2020年(アメリカ)

・ベルリン国際映画祭2020 その他の作品

コンペティション部門選出作品
1. マルコ・ドゥトラ&カエターノ・ゴタルド『All the Dead Ones』奴隷制廃止後も生き残る旧時代の価値観
2. ダミアーノ&ファビオ・ディノチェンツォ『悪の寓話』世にも悲しいおとぎ話
3. ブルハン・クルバニ『ベルリン・アレクサンダープラッツ』フランツはまともな人間になりたかった
4. イリヤ・フルジャノフスキー&エカテリーナ・エルテリ『DAU. ナターシャ』壮大なる企画への入り口
5. ツァイ・ミンリャン『日子』流れ行く静かなる日常
6. ブノワ・ドゥレピーヌ&ギュスタヴ・ケルヴェン『デリート・ヒストリー』それではいってみよう!現代社会の闇あるある~♪♪
7. ケリー・ライヒャルト『First Cow』搾取の循環構造と静かなる西部劇
8. ジョルジョ・ディリッティ『私は隠れてしまいたかった』ある画家の生涯
10. リティ・パン『照射されたものたち』自慰行為による戦争被害者記録の蹂躙
11. ヴェロニク・レイモン&ステファニー・シュア『My Little Sister』死にゆく兄と戦う妹
12. エリザ・ヒットマン『17歳の瞳に映る世界』自己決定と選択の物語
13. サリー・ポッター『The Roads Not Taken』ごめんパパ、何言ってるか分からないよ
14. フィリップ・ガレル『The Salt of Tears』優柔不断な男の末路
15. アベル・フェラーラ『Siberia』悪夢と記憶の荒野を征く者
16. モハマド・ラスロフ『悪は存在せず』死刑制度を巡る四つの物語
17. クリスティアン・ペッツォルト『水を抱く女』現代に蘇るウンディーネ伝説
18. ホン・サンス『逃げた女』監督本人が登場しない女性たちの日常会話

エンカウンターズ部門選出作品
1. Camilo Restrepo『Encounters (Los conductos)』髭面ノ怪人、夜道ヲ疾走ス
2. ティム・サットン『Funny Face』地域開発業者、ヴィランになる
3. Victor Kossakovsky『Gunda』豚の家族を追う親密なホームビデオ
5. マリウシュ・ヴィルチンスキ『Kill It and Leave This Town』記憶の中では、全ての愛しい人が生きている
7. クリスティ・プイウ『Malmkrog』六つの場面、五人の貴族、三つの会話
8. Catarina Vasconcelos『The Metamorphosis of Birds』祖父と祖母と"ヒヤシンス"と
9. Melanie Waelde『Naked Animals』ドイツ、ピンぼけした青春劇
10. アレクサンダー・クルーゲ & ケヴィン『Orphea』性別を入れ替えたオルフェウス伝説
12. Pushpendra Singh『The Shepherdess and the Seven Songs』七つの歌で刻まれた伝統と自由への渇望
13. ジョゼフィン・デッカー『Shirley』世界は女性たちに残酷すぎる
14. サンドラ・ヴォルナー『トラブル・ウィズ・ビーイング・ボーン』小児性犯罪擁護的では…
15. C.W.ウィンター&アンダース・エドストローム『仕事と日(塩谷の谷間で)』ある集落の日常と自然の表情

よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!