ブリュノ・デュモン『ハデウェイヒ』垣根を越えて神を求める愛
ハデウェイヒとは、13世紀に実在した神秘主義者の女性詩人である。本作品の主人公はキリストへの恋文を書いたとも言われる詩人の名を冠したセリーヌ・フェル・ハデウェイヒだ。冒頭、修道院にいる彼女は食事を取らないという方法でキリストへの深い"愛情"を示そうとするが、死なれては困る(=殉教者)として修道院から追い出される。彼女は困った様子もなくパリにある裕福な実家に帰り、機能不全に陥った家族の下へ戻る。その後、パリの街でヤシンというイスラム教徒の青年に出会い、彼のすすめで彼の兄であり宗教指導者ナシールと知り合うことで過激主義・テロリズムに染まっていく。彼女のことを理解もしないし興味もなさそうな父親が強烈で、恐らく彼に反抗するために信仰の道を選んだのだろう。彼女は献身的であるが、それはイスラム教原理主義者との関わりの中で、ある種の純粋さとナイーブさとして描かれているようにも見える。だからこそ、妄信的に神の愛を信じて神を愛し続けている。そして、キリスト教やイスラム教という宗教の垣根を越えて、"神"そのものに接近していく(双方の神が同一かという話ではない)ことも特に抵抗がないのもナイーブさの発現のようで興味深いし、宗教の共通性をスルッと指摘してしまうデュモンの手腕には感服。インタビューでも言っていたが、宗教という"舞台"の上で、神の存在を追い求めたいという欲求=愛を展開していくのは、どこか根源的な要素があって極めてデュモンっぽい。
セリーヌの物語の裏側で、収監されていたダヴィド・ドゥワエルが更生して真っ当な仕事を始める姿が映し出される。彼は『アウトサイド・サタン』で世界を浄化する男を演じており、本作品でも同様の役割を追っていることから二つの作品が精神的な繋がりを持っていることが分かる。宗教者でない、しかも元犯罪者が一番聖性に近いことも同作と同様の指摘であり、純粋な信仰および過激な信仰を軽々と飛び越えてしまう皮肉にデュモンの主張が表れている。
・作品データ
原題:Hadewijch
上映時間:120分
監督:Bruno Dumont
製作:2009年(フランス)
・評価:90点
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