Blerta Basholli『Hive』コソボ、ミツバチの傷を忘れない
アカデミー国際長編映画賞コソボ代表作品。白い医療テントに運び込まれた白い袋、主人公ファーリェは防護服に身を包んだ人々の目を盗んでその中身を確認する。それはボロボロの布切れと土まみれの人骨であり、彼女は係員にすぐさま追い出される。舞台となるのは2000年代後半のクルシャ、コソボ紛争期の1999年に240人以上のアルバニア系住民が虐殺された土地である。現在でもコソボ全土で1600人、クルシャでは64人の安否が分かっていない。当地のまるで内戦時代から時間が止まったような環境は、強い家父長制を残したまま時代から取り残され、夫が行方不明のまま7年間も一人で家庭を支えてきた妻たちの肩に重くのしかかる。ファーリェもその一人である。夫アギムは行方不明で、遺骨が何処にあるかも生死すら分からない。今は夫が遺した養蜂業を細々と続けながら、二人の子供と車椅子の義父を養っている。しかし、蜂蜜の産出量は年々減っていて、かつ市場に出しても全く売れない状況が続く。周囲の目を気にして、夫の帰りを信じて"家"を守ったまま、このまま緩やかに死んでいくしか道はないのか…?
村には"未亡人の会"のような、同じ境遇の女性たちを集めた団体が存在する。ファーリェはその理事補佐を務めている。年々支援が減っていく中で、"運転免許を取ったら車をあげるから街で仕事をしてみないか"というオファーが来る。及び腰な他の会員たちを尻目に、悩んだ末に免許を取って車をもったファーリェは、スーパーマーケットで自家製アイバル(バルカン諸国で食されるパプリカ唐辛子ペースト)を売る新事業を起ち上げることを思いつく。しかし同時に、それは女性が働くことを良しとしない環境の中で、周囲の侮蔑の目や物理的妨害に耐えながら働くことに他ならなかった。
本作品の興味深いのは、"夫の帰りを待ち望む"という想いと"遺された家族のために前に進まねばならない"という想いが両立できることを提示している点だ。その点で、チクチクとファーリェを刺してくるミツバチは彼女の心を傷付け続ける"過去"の存在として示唆的で、アイバル販売が軌道に乗っても養蜂業から離れられないのは、家族の中でもコミュニティの中でも先頭に立って前に進もうとする彼女こそが一番過去を引きずっているからなんだろう。もう一点挙げるとすると、"女のくせに…"に続く展開が運転と起業という二段構えになっていることだろうか。これによって、ある種後戻り出来ないほど先へ進んでしまったことへの良いミスリードに繋がり、上記の"夫への想いは忘れない"という点に帰着するので良い構成だと思う。とはいえ、一応実話が基になっているので、構成もなにもないのかもしれないが。
ただ、一つの映画にするに当たって、エピソード選びやサンプリングの上手さ、あくまでファーリェの内面を描く手法が災いして、八方美人なサラッとした作品になってしまっているのは否めない。ちょっと優等生すぎるかなと。
・作品データ
原題:Zgjoi
上映時間:84分
監督:Blerta Basholli
製作:2021年(アルバニア, コソボ, 北マケドニア, スイス)
・評価:60点
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