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モーリス・ピアラ『私たちは一緒に年をとることはない』非線形な共依存愛情が行き着く先は?

遠い昔にマルレーヌ・ジョベールを知り、その次にモーリス・ピアラを知り、確かピアラ特集のときのパンフレットに記載があった本作品を知るのに時間は掛からなかった。自伝的な内容として前の時間軸となる「ルル」を見た私は本作品に一抹の不安を覚えたが、結果そっちよりも何倍も面白かった。

映画監督としてなかず飛ばずのジャンはフランソワーズという妻がいるのに、カトリーヌという別の女性と付き合っている。彼女との関係は最早熟年夫婦並に拗れていて大喧嘩と仲直りを繰り返す日々を送っている。やがて音信不通となったカトリーヌが結婚すると聞きフランソワーズをけしかけてそれを確かめる。最後、長らく共依存関係にあったジャンとカトリーヌは決定的に別れ、古き良き想い出と共に映画は幕を下ろす。

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ジャンとカトリーヌの共依存関係は最早狂気を通り越してギャグみたくなっているのは笑える。ジャンの沸点も愛情も非線形すぎて対応しきれない気がするが、カトリーヌもフランソワーズも対応しているあたり謎の魅力でもあるのだろう。か、腕毛好きかどっちかだね。

私が本作品を決定的に好きな理由は色々あるが、一番は映像の色味である。おそらくは「クレールの膝」あたりでも見たピアラがファッショナブルな発色を目指したのではないかと疑うほど赤や黄色の服(短いスカートも含めて)がいい色を出していた。また、「ルル」でみられたような"セックスに直結した愛情"がイマイチ乗り切れないのだが、本作品はセックスすら超越した共依存関係だったので、"結局はセックス"みたいな安易な逃げ道が無い分、ジャンとカトリーヌが正面からぶつかっていた。

ジャン=ピアラ、カトリーヌ=コレット、フランソワーズ=ミシュリーヌという実在人物をもとにピアラが別れた直後(1966年)あたりから文章を認め始め、1970年に完成した小説を原作としている。そしてフランソワーズ役にはミシュリーヌを当てるという最強のクズ配役をするのだが、ジャン役ジャン・ヤンヌが素人との共演を嫌ったためお蔵入り。撮影中もクズ役を演じたくないヤンヌと彼の友人でプロデューサーだったジャン=ピエール・ラッサムがピアラと大喧嘩し、ピアラの自伝なのにピアラを監督から降ろすという超本末転倒なことまで発生しかけたらしい。結局は特に被害を被らなかったらしいジョベールみたいなキャストorスタッフが彼らの間を取り持つことで事なきを得た(?)ため無事完成し、ヤンヌとジョベールの集客力によって大ヒットとなったとのこと。

これに関してピアラと同じくヌーヴェルヴァーグ後期に登場し、映画製作が上手いこと出来ずに辛酸を嘗めた同志ジャン・ユスターシュは"スターシステムのおかげ"と全く本作品を評価しなかった。そして翌年スターシステムに乗っ取らない「ママと娼婦」でカンヌ審査員特別賞を受賞する。本作品と「ママと娼婦」の類似性は列挙に暇がないが、互いに認めようともせず、それでも意識し合っていたというのは微笑ましいエピソードじゃないか。ちなみに、ユスターシュ、ピアラとくればロジエらしいが彼の作品は触れたことすら無いのでスルー。

最後に触れるべきはマーシャ・メリルだろう。安定の可愛さ。当時32歳だが謎の貫禄があるのは秘密。

出来れば本作品を"1001の映画"に選んで欲しかったが、編者は「ルル」の方が好きなんだろう。腕毛嫌いなのかな?


・作品データ

原題:Nous ne vieillirons pas ensemble
上映時間:
監督:
公開:

・評価:99点

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