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ジョルジュ・フランジュ『ジュデックス』鳩とオフィーリアと巨万の富と

ジョルジュ・フランジュは天才だと思う。ルイ・フイヤードが『ファントマ』から『レ・ヴァンピール』に進化させてきたファントマ的イメージの集大成とも言える『ジュデックス』をジョルジュ・フランジュがリメイクしたのが本作品。ジュデックスという謎の人物から送られてきた悪徳銀行家ファヴローへの殺害予告から幕を開け、サイレント映画を意識したであろう少ないセリフの中にファヴローの娘ジャクリーヌとその娘、謎めいた家政婦マリー、ファヴローの罪を被って刑務所入りした老人などの関係性を導入する。マリーたちのグループはファヴローの財産を狙っているのだが、悪事を働く彼女はイルマ・ヴェップを意識したであろう黒タイツに身を包み、絶えず何も知らないジャクリーヌを付け狙う。序盤のクライマックスは勿論、ジュデックスが鷲頭の被り物でパーティに登場して、理解不能なくらい大量の白い鳩を部屋中に撒き散らすシーンだろう。ファヴローはこのパーティで倒れた後に、ジュデックスが誰もいない廊下を一人歩くとこなんか最高すぎる。

あの手この手で奇妙な変装までしてジャクリーヌを手に入れようとするマリーたちの姿は『レ・ヴァンピール』のヴァンピール一味に重なってくるし、物静かだが雄弁な画面構成によって単純な駆け引きも魅力に満ちあふれていく。これ見よがしに「ファントマ」を読む"すっとぼけ探偵"コカンタンも何の活躍もしないかと思いきや意外な活躍を見せてくれる。

意味分からんタイミングで颯爽と登場するシルヴァ・コシナが実に素晴らしく、白タイツを履いた彼女は黒タイツのマリーと当たり前のように戦う。ツーっと滑って雨樋にぶら下がり、鬼の形相を浮かべる一連のシーんは無駄が一切ない緊迫感。そして何より、エディット・スコブの崇高なる美しさ。彼女の神々しさは番犬に守られるシーンや川に突き落とされた時のオフィーリアっぽいシーンなどで象徴的に使われている。古城に番犬って完全に『顔のない眼』だよなぁと。

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・作品データ

原題:Judex
上映時間:104分
監督:Georges Franju
製作:1963年(フランス)

・評価:100点

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