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世界の(未)公開映画

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東欧映画、ロシア映画以外の未公開映画についてまとめています。最近は公開された作品も掲載しています。全ての記事をどこかに帰属させてあげたいという親心です。見逃してください。
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2024年6月の記事一覧

マルコ・ベロッキオ『The Eyes, the Mouth』自殺した双子の弟を求めて

傑作。1982年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。マルコ・ベロッキオ長編八作目。ベロッキオは29歳のときに、双子の弟カミッロを自殺で亡くしており、本作品も自殺した双子の弟ピッポの葬儀のため、落ち目の俳優ジョヴァンニが久しぶりに帰省する場面から始まる。ジョヴァンニが話す弟とのエピソードの中に登場する"マルクスは待ってくれる"という発言はカミッロの言葉そのままだし(後に同じ題名のカミッロについてのドキュメンタリーを製作している)、キャリア躍進のきっかけとなったデビュー作『ポケ

モハマド・ラスロフ『Iron Island』イラン、沈みゆく船、沈みゆく国家

傑作。モハマド・ラスロフ長編一作目。ペルシャ湾に浮かぶ朽ちかけた石油タンカーで暮らす不法占拠者たちの物語。タンカーはネマト船長(ネモ船長への目配せか?)と呼ばれる老人によって支配されている。彼は毎日のように船内を巡回して住民たちの悩みを聞き、女たちの内職や男たちの船解体を指揮し、外部との交渉も行い、なんなら娘の結婚まで斡旋し、子供たちへの教育も整備するというように、表向きは"慈悲深き"指導者である。一方で、自分の定めたルールに従わない者には容赦しないという一面もある。つまり、

モハマド・ラスロフ『The White Meadows』涙を集める男が見たイランの寓話

傑作。モハマド・ラスロフ長編二作目。編集にはジャファル・パナヒ。主人公ラフマットは小さな島々を小舟で回りながら、冠婚葬祭から雨乞いみたいな儀式まで様々な行事に参加して人々の涙を集めている。どこまでも白い海辺の陸地、青から時に紫にまで変化する空、何も語らぬ静かな海という情景の美しさと相反して、そこに暮らす人々は伝統を重んじた生活と儀式の効能を信じており、宗教的過激主義、教条主義、女性差別、芸術や創造性の分野における重大な不正義によって息苦しさすら感じさせる。ラフマットは傍観者/