マガジンのカバー画像

世界の(未)公開映画

153
東欧映画、ロシア映画以外の未公開映画についてまとめています。最近は公開された作品も掲載しています。全ての記事をどこかに帰属させてあげたいという親心です。見逃してください。
運営しているクリエイター

2022年5月の記事一覧

アレクサンドル・アストリュック『女の一生』鬼畜夫が支配する斜めの構図

大傑作。これは凄すぎ。二人の女性が砂浜に向かって走っていったり、片方が海に落ちて溺れかけたり、まるで『燃ゆる女の肖像』みたいなシーンが冒頭にあって驚く。そんな溺れかけた純情乙女ジャンヌは助けてくれたパリ帰りの青年と恋に落ちてすぐに結婚する。しかし、夫は新婚なのに家を開けまくり、ジャンヌ幼馴染で女中のロザリーに手を出して妊娠させ、友人の新妻とも不倫をしてとやりたい放題。ジャンヌといるときは出会った瞬間から死ぬ瞬間までニコリともしない鬼畜っぷり。二人の距離感は人を端に追いやって空

ウルリケ・オッティンガー『アル中女の肖像』名もなき女のベルリン酒場放浪記

大傑作。片道切符でベルリンにやって来た物言わぬ名もなき主人公。優雅なブルジョワである彼女の目的は、過去を忘れて破滅的な情熱に身を任せ、ひたすら酒を飲むこと。不自然にも人が少ない空港はそれだけでもワクワクしてしまうが、真っ赤なコートを着て颯爽と歩く主人公を様々なショットで美しく格好良く切り抜いていくので、余計に楽しい。主人公の足元(真っ白なヒール靴)が遠ざかる→イキった従業員がゴミ回収カートを暴走させてカメラ前で転ぶというシーン、ガラス越しにこちらを覗く主人公の前を突然水拭きし

ミケランジェロ・フランマルティーノ『The Gift』終わりを待つカラブリアの村

『四つのいのち』『洞窟』などスローシネマで世界を魅了するフランマルティーノの初長編作品。舞台となるカラブリアの小さな村カウロニアは、1950年には1万人以上の住民が暮らしていたが、今となっては数百人程度まで減ってしまった。そんな寂れた村で暮らす人々の物語である。主人公は山の上で農業を営む老人と、村で唯一くらいの若い女性である。彼らを含めた住民の時間は止まって見えるくらいゆったりとしていて、印象的な波打ち際に転がる廃船や山に捨てられた廃車のように、無気力に終焉を待っているのだ。

ミケランジェロ・フランマルティーノ『四つのいのち』四つのいのち、生命の繋がり

最新作『洞窟』が素晴らしかったので…と調べてみたら、なんと同作は本作品に続く監督三作目だったのか。エゲツない才能だな。本作品は題名の如く、人間/羊/巨木/木炭の"四つのいのち"を通して、生命の繋がりを見出す作品である。舞台は南イタリアのカラブリアの山村(カラブリアといえばアリーチェ・ロルヴァケル『天空のからだ』)で、第一章は雄大な自然の中で羊の放牧をして暮らす老人の生活を描いている。教会の床のホコリを薬として飲んでいるので、健康状態はあまりよくないらしく、そのまま倒れてしまう