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世界の(未)公開映画

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東欧映画、ロシア映画以外の未公開映画についてまとめています。最近は公開された作品も掲載しています。全ての記事をどこかに帰属させてあげたいという親心です。見逃してください。
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2020年9月の記事一覧

アントニオ・カンポス『アフタースクール』氾濫する"他人の記憶"の中で

紙を破って喜ぶ赤ちゃん、男女の取っ組み合いの大喧嘩、自転車ワザの顔面着地、絞首刑のスナッフフィルム、ピアノを弾く猫、血まみれの戦地、そしてAV。主人公ロバートが画面越しに眺めているそれらの情報は、(当時から考えて)一昔前なら考えられないほど過激で過剰で、しかもワンクリックで得ることが出来る。全寮制の名門私立高校に通うロブはそんな動画が大好きで、存在しなかったビデオ部なるクラブを一人で始めるほど。彼には友人もいるが、十代の学生らしく孤独感もあり、二言で形容すれば"混乱してるが無

クロエ・ジャオ『兄が教えてくれた歌 (Songs My Brothers Taught Me)』だだっ広い平原と澄み渡る空の狭間で

パインリッジのネイティヴ・アメリカン居住地に暮らす二人の兄妹の物語を初期と後期のテレンス・マリックが融合したみたいな語り口で描くクロエ・ジャオの長編デビュー作。なので引用を遡って、今のマリックが『天国の日々』を撮り直したらこんな感じになるんじゃないかというシーンもチラホラ。本人は『ニュー・ワールド』に多大なる影響を受けたと語っている。居住地から出ていくことを目指す兄と仲の良い兄からの独立を目指す妹の細やかな日常が丁寧に積み上げられる様は、それぞれの挿話に直接的な関係性がないこ

アントニオ・カンポス『Christine』本邦初公開の…自殺です

1974年7月15日。テレビ史上最も衝撃的な事件の一つが起こる。生放送中にキャスターが拳銃自殺したのだ。彼女の名前はクリスティーン・チャバック、当時29歳の女性キャスターだった。物語は彼女の日常生活から幕を開ける。スタジオで一人フィルムを回しながらインタビューの練習をし、放送の直前になって使うフィルムの変更を指示するなど仕事には非常に熱心で、多少無茶をすることもあるが同僚との仲も良好だ。しかし同時に、いくつかの問題も抱えている。視聴率のために"犯罪"を求める上司と地元の人々と

アントニオ・カンポス『Simon Killer』衝動的行動者、潜在的殺人者

五年来の恋人ミシェルが浮気していることを知って別れたサイモンは、気分転換にパリにやって来るが、上っ面だけ旅行気分を味わっても全くミシェルを忘れられない日々が続く。しかし、その行動はおおよそ女々しく元カノを思い続ける優男とは違っている。ルーブルやオルセーに行ったり、エッフェル塔に登ったりするシーンは心ここにあらずのような状態で数秒しか登場せず、まるで潜入スパイが不審さを取り繕うために行動しているかのようだ。そしてて、ミシェルに対する未練たらたらな手紙が読み上げられたすぐ後に、オ