マガジンのカバー画像

世界の(未)公開映画

153
東欧映画、ロシア映画以外の未公開映画についてまとめています。最近は公開された作品も掲載しています。全ての記事をどこかに帰属させてあげたいという親心です。見逃してください。
運営しているクリエイター

2020年4月の記事一覧

アンドレア・アーノルド『ワザリング・ハイツ ~嵐が丘~』五感で感じる"嵐が丘"

圧倒的大傑作。これまで『嵐が丘』は散逸してしまった A.V. Bramble のサイレント版(1920年)に始まり、ウィリアム・ワイラー、ルイス・ブニュエル、ジャック・リヴェット、吉田喜重などが映画化しており、テレビ版も含めると20を超える作品が世界中で映像化されている。アンドレア・アーノルド長編三作目である本作品は、数ある映画化作品の中では最新のものであり、現状キャリアで唯一カンヌ映画祭に出品されなかった作品でもある。その他の映画化作品との大きな違いは、ヒースクリフが黒人

アラン・レネ『ジュ・テーム、ジュ・テーム』記憶の曖昧さと発作的時間旅行

圧倒的大傑作。ジャン=リュック・ゴダール『アルファヴィル』、フランソワ・トリュフォー『華氏451』に比べると、1968年という特殊な年に生まれたばかりに興行も失敗して不遇の扱いを受けているため、"呪われた映画"と呼ばれることも多い。上記二作品が文学をSF映画に持ち込んだのに対して、本作品では記憶や時間を持ち込むことで、カート・ヴォネガットよりも先に"全時間を生きる発作的時間旅行者"の物語を完成させてしまったのだ。自殺未遂をして病院にいるクロードは、退院と同時に怪しい男たちにあ

アンドレア・アーノルド『Red Road』画質の良すぎる防犯カメラとその窃視的観察者

ジリアン・ベリー、ロネ・シェルフィグ、アナス・トマス・イェンセンが製作総指揮となり、彼らが考えた背景を持つ登場人物たちを脚本に使って異なる新人監督に長編を撮ってもらう三部作"アドバンス・パーティ"の第一編。白羽の矢が立ったのは短編『Wasp』でアカデミー短編映画賞を受賞したアンドレア・アーノルドだった。ちなみに、二作目はモラグ・マッキノン『Donkeys』で、三作目はMikkel Nørgaardが撮るはずが企画は凍結しているような状態らしい。製作総指揮の名前からも分かる通り

エロイ・デ・ラ・イグレシア『Glass Ceiling』団地妻は殺人狂の夢を見るか?

大傑作。マルタは郊外の小さなマンションに暮らす魅力的な主婦である。彼女の忙しい夫カルロスは出張ばかりで家を空けがちで、猫のフェドラと共に暇で空虚な日々を送っている。ある夜、上階から響く騒がしい足音でマルタは目を覚ました。上階のフリア&ビクトル夫妻もマルタ&カルロス夫妻と似て長期出張を繰り返す夫と専業主婦の妻という構成で、互いの家に行く程度の知り合いだったからだ。あの重い足音はビクトルか、真夜中に起きるなんて病気が悪くなったんだろうか。翌朝、冷蔵庫が壊れたから肉を入れて欲しいと