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【書評:☆☆☆☆★】羊飼いの暮らし
本書はイギリスの湖水地方での羊飼いの暮らしについて書かれたものです。
著者は羊飼いの家系の出身で、オックスフォード大卒で現在は40歳前後。いまも羊飼いです。
このプロットだけだと、頭脳明晰な著者が思索を深めながら哲学的に羊飼いをしているような想像をしましたが全くそんなことはなく、純粋に羊飼いという人生に圧倒的な幸せを感じているというのが読後の感想です。
羊飼いに対する本書を読む前の私の印象は、牧歌的でアルプスの少女ハイジ的な穏やかな日常のイメージでしたが、読んでみるとその真逆の厳しい日々の連続でした。
400ページほどある本書の最初の100ページは、過酷な羊飼いの日常が延々と詳細に綴られているだけであり、ドラマは全くなく、何度も途中で読むのをやめてしまおうかと思ったほどです。
でもそこから少しずつ著者や周りの人間の考え方や価値観などを知ることができ、いま考えてみると、読み始めの過酷なだけで単調な日々の描写は、羊飼いの実際の生活を知らしめるうえで必要不可欠なページ分量であったように感じます。
本書で特に印象的だったのは以下の文章です。
現代の都会のビジネスマンのように、短期的に「利益を最大化する」ことなどふたりの頭のなかには毛頭なかった。手っ取り早い利益よりも、誠実な人間としての名声や評判のほうがずっと大切だった。一度口に出したことは、責任を持ってまっとうする。それがここでの掟なのだ。(P.53)
これには、忘れてはいけないものに気づかされたように感じます。そして本書を読んで何よりも私の心を打ったのは、以下の最後の一文でした。
ほかに望むものなど何もない。これが私の人生だ。(P.398)
こう言っているのが私と同年代の人間であり、他の年代も含めてそうそうこんなこと言える人などいないのではないだろうか。
幸せとは何かを考えさせられた。