20250123
ロベルト・ボラーニョ『アメリカ大陸のナチ文学』(野谷文昭訳、白水社)を読んだ。一九九六年に後のボラーニョ作品をすべて刊行したアナグラマ社から出版された初めてのボラーニョ作であり、今作によって彼は注目されるようになった記念碑的作品。タイトルにもあるように、主に南米出身の架空の極右的(ナチス礼賛も)作家三十名の生涯や作品について羅列した文学辞典の体をとった小説。
こう書くと自分でも全く中身が想像できないが、そういう戸惑いは読んでいくうちに吹っ飛んで、ボラーニョの作品世界がこの頃からすでに確立されていたことを思い知る。文学辞典といっても、エドガー・アラン・ポーの「家具の批評」をもとにポーの部屋を再現し、それについて書くという女性詩人やサッカーのフーリガンの活動の傍ら機関紙を発行し、詩も出版するという兄弟、そして「僕」というボラーニョ自身が登場する短編仕立ての作品などここで描かれるのは後の彼の作品に通じるキャラや挿話を含んだ、まぎれもない「小説」になっていて感嘆する。