20230403
坂本龍一が三月二八日に亡くなった。昨年に食道がんを患っていることを公表し、新潮でも「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」という遺書のようなタイトルの連載を終えたばかりだった。再開発による神宮の緑地伐採、原子力発電への反対運動に最後まで身を投じ、とても良い人生の終え方だったのではないか、そう思えるような晩年の活動に改めて敬意を表しご冥福を祈りたい。わたしは英国在住時にロンドンで彼のライブを観たのが初めてだった。その時は確か、中央部にあるロイヤルアルバートホールで、ドイツのアーティストAlva Noto(アルヴァ・ノト)との共演だったと記憶している。ホールの真ん中にグランドピアノが置かれ、客席がそれを囲むようなかたちで演奏していた。まだ二十代だった自分には格式高い、実験的な高尚なステージに見えた。日本に帰国して、仕事でも二度、彼を取材したことがあった。一度目はちょうど今のChatGPTやMidjourneyの一世代前と言えばいいだろうか、AIで作曲した楽曲が話題になっていた時期で、わたしはそのことについて質問した。教授は「そんなことは大したことではないと思う」と音楽のアルゴリズム以外について熱く語ったことを覚えている。二度目はWiredの主催イベントで、幸運にも彼の生演奏を目の前で観ることができた。グランドピアノのピアノ線を叩いたり、アヴァンギャルドな演奏でピアノだけで豊饒な音を奏でていた姿が忘れられない。先日亡くなった高橋幸宏とはもう再会されただろうか。世界中のメディアやアーティスト、著名人らが弔意を示すTLを眺めてその偉大さを思い知った。合掌。
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