20240916

 マルカム・ラウリ―『火山の下』(斎藤兆史監訳、渡辺暁・山崎暁子共訳、白水社)を読んだ。アルコール中毒のメキシコの英国領事ジェフリー・ファーミンがクワウナワクで突然、彼を再訪離婚した元妻イヴォンヌと弟のヒューと共に過ごす死者の日一日の出来事をそれぞれの視点を通して語る。
 なんと言っても、白眉なのはジェフリーの酩酊した思想が白昼夢のように語られるその文体だろう。もちろん、筆者のラウリ―自身がアル中であった経験がここに反映されていることは分かる。それでも一体どうやって書いたのか、本当に酔っ払いながら書いたのか、その酔っ払た風体が目に浮かぶようにデタラメながらも目の滑らない独特の文体で驚く。物語自体は悲劇なのだが、ユーモアにあふれていてカタコトの英語やスペイン語の入り混じった、ラウリ―がメルヴィルやコンラッドに憧れて海に出て、メキシコやアメリカ、カナダなどを転々とした経験の活かされたインターナショナルな文体も新鮮だった。これを翻訳した訳者の労力にも恐れ入る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?