20230224

 雲の多い空模様で、夜には雨が降った。気温自体は高めで春の雨といった感じだった。これから暖かくなることを祈る。と言いつつ、もう一度は寒の戻りがありそうな気がする。この日は、不定期で主宰している「小川洋子読書会」の第四回を開催した。課題図書は『猫を抱いて象と泳ぐ』(文春文庫)だった。実在したチェスプレイヤーであるアレクサンドル・アレヒン(以前はアリョーヒンと呼ばれていたが、ロシア語表記に従うとアレヒンが正しい発音のようだ)と〝トルコ人形〟と名付けられた機械仕掛けのチェス人形――実際には中に人が入り操るインチキだった――のエピソードを基に、盤下の詩人(アレヒンは盤上の詩人の異名を持っていた)と呼ばれたリトル・アリョーヒンの木製人形の中に入ってチェスを打ち続けた人物の生涯を描く物語。冒頭からデパートの屋上から身体が大きくなりすぎて下りられなくなった象、廃車になったバスの中で暮らす太りすぎの男(マスターと呼ばれ、彼がリトル・アリョーヒンにチェスを教える)とポーンと名付けられた猫、リトル・アリョーヒンのイマジナリーフレンドのミイラなど印象深いキャラクターに囲まれて成長する――とは言え、彼は象やマスターの姿を見て極度に体の成長を恐れ小さいまま大人になる――前半とリトル・アリョーヒン人形の中に入って、海底チェスクラブと呼ばれる地下でのチェス対戦、人形が壊されて代替として始まる人間を駒に見立ててチェスを打つ――駒は黒と白の布をまとった女性たちが務め、彼女たちを獲った客はその後更衣室の中に彼女たちを連れ込んでいるという風俗要素を持っていた――中盤を経て、老人ホームでチェスクラブの元会員の老人たちとのリトル・アリョーヒンとして最後の仕事の中で悲劇的な最期まで決して明るく楽しい話ではないが、かと言って凄惨で後味の悪さのあるわけでもなく、死の匂いは漂いつつ閉じられた世界の中で、リトル・アリョーヒンが打つ棋譜の美しさ、壮大な宇宙をも感じさせるチェスの海という世界観を言語によって想起させる小説としてまさに理想的な形を示している傑作だった。そのような感想を聞いたり、言ったりする中でより深く、広く作品世界を理解できるという意味でも読書会はチェスにおける対話に通ずるものがあると感じた。

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