20231012
『遠い山なみの光』を読了した。終わり方はひどくあっけなかったが、このくらいの分量が丁度いいのかもしれない。池澤夏樹の解説が良かった。彼の言う通り、語り手である悦子は夫が順調に出世街道を歩み、生まれてくる命とともに希望を持って生きていたがために、過去の暮らしに執着し、フランクという米人にわずかな望みをかけて娘の万里子の世話もろくにできない佐知子への反発を当時は持っていた。ところが、いざその時の娘である景子が自死を選び、英国の地でひとり不安になってしまうと、佐知子に対する共感の方が大きくなっている。最後まで分かり合えなかった景子と、万里子が彼女にとって理解不能の不気味な存在として、彼女の気分を暗くさせている。この中で父親違いの次女、ニキも悦子の元を去っていくが、彼女の奔放さだけが微かな希望としても映る。