20230308
にいがた経済新聞社が主宰する「NIIKEI文学賞」が設立された。今年の五月末が締め切りで、新潟に関することを書けばいいみたいだ。地方文学賞は近年盛り上がりを見せている感がある。わたしも地方出身であるが、東京に出てきて一〇年以上になる。どうしても所縁がないとその土地の話を書くのは難しい――いや、方言もそうではあるが、ここではその土地土地での生活や一般の感覚みたいなものだ――。逆に言うと、そこで生活しているとその感覚や景色は書き手にとっての個性に結びつく。それはそのまま、その書き手の声となり、文体となるだろう。「暮らす」ということは、それだけで才能なのである。すこし前に青木淳吾と滝口悠生による対談で二人が実際に住んだ場所しか描けない、という話をしていた。わたしは英国のロンドンに四年近く語学留学していた。英国でいわゆる自分探しをしていたわたしは、何者にもなれない自分を嘆いていた。そうした愚痴を酒の席でこぼした時、当時バイトしていた日本食料品店の店長がわたしに掛けてくれた言葉が「異国の地で生活するのって、それだけで凄いことだよ」というものだった。帰国してから小説を書き始めて、一〇年経った今になって初めてあの言葉の意味が理解できたと思う。ずいぶんと気温が上がって、東京も春めいてきた。これから新入生や新社会人が新しい土地で暮らし始めると思う。この三年はコロナのパンデミックで、その暮らしも一変した。そういう小説も数多く書かれた。またアフターコロナの物語がそれぞれの土地で描かれるのだろう。