20231126
ブンゲイファイトクラブ5(BFC5)の優勝者が蜂本みさに決まった。蜂本さんはBFC初回で準優勝、BFC2で優勝していたので三年ぶりの出場で二度目の優勝という快挙を成し遂げた。本当に凄いことだ。今回の一回戦作「死にの母」は傑作で、優勝作となった「お会いましょう」は読みの可能性を無限に広げる奥深い作品だった。作品もさることながら、ジャッジのジャッジで展開された論説も堂に入ったものだった。彼女は現在、SFメディアであるKagya Planetでの長篇連載を抱えつつ毎週BFC初代チャンピオンである北野勇作氏と、BFC3ファイターとしても出場している書店「犬と街灯」の店主・谷脇栗太氏と三人でレギュラー出演している「犬街ラジオ」において、毎週オリジナル作品を朗読するという日常を送っていて、そのことが着実に彼女の実力をここまで高めているという証左にもなった。BFCから芥川賞作家が出るとしたら、間違いなく彼女をおいて他にないだろう。そして、それはより現実的なものになったと思う。そういうことを感じた。
そんな有終の美に波紋を起こすようで指摘しづらかったが、決勝ジャッジである野村金光氏のジャッジ評には若干の疑問符が付いた。字数の関係もあったと思うが、ここでは両作品における「他者化」ということに絞り論が展開されていた。父権としての「警官」、私的な空間から公的な空間として機能する「電車」の論述など面白い観点があっただけに、その他の側面としての論は省かれてしまったことに、いち読者として物足りなさを感じてしまったのが正直なところだ。わたしは学術論文などを読んだことはないのでよく分からないが、論文としては優れているとBFC3、4ファイターである宮月中氏の言に触れ、BFCというお祭りでは、やはりアカデミックなものより大衆性をもったものが求められている、というか、わたしのような人間は求めていると多少の自戒と、それでも野村氏の総合的な読みをぜひとも知りたいという願望をもった。