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思考スピードを上げて、クリエイティビティを高める


作業の「慣れ」を回避する


デスクワークで同じような作業ばかりを長時間していると、集中力が低下し、パフォーマンスが下がる経験は誰しもあることでしょう。そのような時は、思考力も低下し、クリエイティビティを発揮することは難しいと考えられます。この状態への対処法としては、まず、作業の「慣れ」を回避すること、そして、思考スピードを上げることでクリエイティビティを高めることができます。

まず、作業の「慣れ」を回避する方法について、アメリカのイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の有賀博士らの実験をご紹介します。

この実験では、参加者はパソコン画面に表示される「縦棒」をひたすら見て、たまに出現する「短い縦棒」を発見したらボタンを押すという単純作業を40分間繰り返すように指示されました。参加者のうち、1つのグループは、単純作業の合間(40分のうち2回)に、予め指定された数字を思い出すという別の課題を一瞬だけ課されました。一方、もう1つのグループは、別の課題は課されず、単純作業を繰り返しました。

分析の結果、単純作業だけを行ったグループよりも、別の課題を一瞬だけ課されたグループの方が、後半になっても単純作業のパフォーマンスが落ちませんでした。一方、単純作業だけを行ったグループは、パフォーマンスが10%以上も低下してしまいました。

ずっと同じ作業に取り組んでいると、作業への「慣れ」が生じ、ゴールへの意識が低下しますが、合間に別の課題を行うことで、ゴールへの意識が一瞬、不活性化します。そして、元の作業に戻った時に、再びゴールへの意識が活性化するため、新たな気持ちで作業に取り組むことができると研究者らは考えています。

日常での応用イメージは次のような感じでしょうか。

資料作成の作業を1時間行う時、1時間ずっと同じ作業を続けるのではなく、40分経過したら、3分間、別の作業を挟みます。その3分間で、簡単に対処できるメールを1、2本返信します。そして、残り時間を再び資料作成に使います。こうすると、1時間ぶっ通しで資料作成するよりも、資料作成作業のパフォーマンスの向上が期待できます。


思考スピードとクリエイティビティ


作業の「慣れ」を回避した後は、思考スピードを上げることでクリエイティビティを高めましょう。これを実証した研究をご紹介します。

米プリンストン大学心理学部のエミリー・プロニン博士、ハーバード大学心理学部のダニエル・M・ウェグナー博士は、思考スピードを早くすると、ポジティブ感情が高まり、クリエイティブになるのではないかという仮説を立て、実験を行いました。この仮説の背景にあるのが、躁状態の患者は思考スピードが早く、クリエイティビティを発揮するという先行研究です。健常な人でも思考スピードを早めれば、クリエイティビティが高まるのではないかと考えたわけです。

実験では、144人の大学生を以下の4群に分け、種類の異なる60の文章を音読してもらいました。

 ① 高揚感のある文章を早いスピードで音読

 ② 抑うつ感のある文章を早いスピードで音読

 ③ 高揚感のある文章をゆっくりしたスピードで音読

 ④ 抑うつ感のある文章をゆっくりしたスピードで音読

ちなみに、早いスピードのケースでは、1文字の表示速度が40ミリ秒で、ゆっくりしたスピードのケースでは、170ミリ秒でした。(一般にちょうど良いと感じるのは80ミリ秒程度)ここで、早いスピードで音読することは思考スピードが早くなることと同義と考えられます。

その後、感情状態、活力、クリエイティビティ(どれだけ創造的で、洞察力があり、インスピレーションを受けているか?)の主観評価を実施しました。

さて、結果はどうなったでしょうか?


ネガティブな気分の時こそ、思考スピードを高める


上記の実験を分析した結果、とても興味深いことがわかりました。

まず、①の高揚感のある文章を早いスピードで音読した群が最も、ポジティブ感情、活力、クリエイティビティが高いことがわかりました。これによって、実験前に立てた仮説は立証されたわけですね。

そして、興味深いのは、②の抑うつ感のある文章を早いスピードで音読した群は、③の高揚感のある文章をゆっくりしたスピードで音読した群よりも、ポジティブ感情、活力、クリエイティビティが有意に高かったことです。

つまり、文章の内容がネガティブ(抑うつ感)でも、思考スピードが早くなると、ポジティブ感情が高まり、活力、クリエイティビティが高まることが分かったのです。

ここから、たとえ気分がネガティブな時でも、思考スピードを早めれば、ポジティブ感情になり、クリエイティビティも高まる可能性が示唆されました。

少し違う話になりますが、うつ病の人は歩行スピードが遅いという、ドイツのルール大学ボーフム臨床心理学部の研究結果があります。この研究の別の実験では、うつ病患者ではなく、健康な大学生を対象に、音楽を使用して、悲しい気分に誘導すると、うつ病患者と同じく、歩くスピードが遅くなることがわかりました。

思考スピードと歩くスピードが必ずしも連動するとは限りませんが、ウォーキングしながらアイデアを練るクリエイティブ・ウォーキングを実施する時(詳しくは、「メンタルヘルスを改善し、クリエイティビティを高めるウォーキング」をご参照ください)、時折、アクセントとして、歩くスピードを上げてみると、思考スピードも上がり、アイデアをさらに出しやすくなる可能性があります。

参考文献:
・Ariga, A., & Lleras, A. (2011). Brief and rare mental “breaks” keep you focused: Deactivation and reactivation of task goals preempt vigilance decrements. Cognition, 118(3), 439-443.
・Pronin, E., & Wegner, D. M. (2006). Manic thinking: Independent effects of thought speed and thought content on mood. Psychological science, 17(9), 807-813.
・Michalak, J., Troje, N. F., Fischer, J., Vollmar, P., Heidenreich, T., & Schulte, D. (2009). Embodiment of sadness and depression—gait patterns associated with dysphoric mood. Psychosomatic medicine, 71(5), 580-587.

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