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恋アス10話の天文シーンを元天文部のオタクが考察する

TVアニメ「恋する小惑星(恋アス)」の星空シーンや天文に関わるシーンを検証・解説する記事の第10弾です。まだ観ていない方にはネタバレとなる可能性があります。ご注意ください。

恋アスの物語はついに2年目に入りました。地学部の活動と引越しの危機を経てパワーアップしたみらあおに(そしてもちろん、新入部員のナナチカコンビにも)注目です。

はじめに・おことわり

筆者は中学・高校・大学で8年間天文部に在籍し、現在も趣味として天体観望を行っています。一方で、地質・気象など地学の他分野については中学の授業レベルの知識しかなく、言及できません。ご了承ください。

ご紹介するアニメ中の表現が、現実と異なる場合もあり得ます。本記事の目的は考察を楽しんで頂くことで、アニメの間違いをあげつらうことではありませんのでご注意願います。また、本記事の考察内容に間違いを発見された場合は、コメント欄やTwitter(@kn1cht)までお知らせください。

これまでの考察記事は以下からお読みいただけます。

KiraKira 春号

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部

冒頭の新入生募集のシーンであおが持っている会報「KiraKira」ですが、一番上がオリオン座の写真です。三ツ星やオリオン大星雲などが確認できます。

手持ちの写真の中から、会報と似たような構図になるよう切り出してみました。だいたい35mm換算で50mmくらいのレンズで撮るとこのくらいの大きさで写ります。

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オリオン座(2019年12月1日 筆者撮影)

※ところで、会報の天体写真は誰が撮っているのでしょう? まさか遠藤先生……?

「地質でも天文でもなく気象です」

新入生のナナが、気象の分野を取り入れて欲しいと要望する場面です。高等学校までで扱う「地学」は、主に地質・天文・気象の分野を含んでいます。従って、全国の地学部の中には、気象を活動内容に含めているところもあるようです。

天文ファン的にも、気象を意識して動くことはとても重要です。空の広い範囲が晴れなければ星が見えないためです。古のガチ勢はラジオから流れる気象通報を頼りに天気図を描いたそうです(実際、「宙のまにまに」には天文部の部長が天気図を作る場面があります)が、今ではネットのサービスを活用する人がほとんどです。

天文ファンの間で定番となっているのは、気象庁などの予測モデルを用いて雨量・雲量・気温などを予測する「GPV気象予報」や、その後継の「SCW」などのサービスです。雲の動きの予測結果を地図に重ねて表示できるので、少しでも晴れている場所で星を見たい天文ファンとしては重宝しています。

「課題の小論文がなぁ…参加できるのたった7人なんだ」

作中で登場する新天体捜索体験プログラム「きら星チャレンジ」ですが、「美ら星研究体験隊(美ら研)」という名称で実在することは、4話の記事でも言及しました

募集要項も上記のページから確認でき、実際に「星や宇宙に対する想
」を400字以内で書くことが求められているのが分かります。
募集人数については、実際の要項では20名となっており、地元の八重山高校や沖縄本島の高校からの参加が多いようです。

「お月さまきれい…」「でしょ? そばに見えるのは木星だよ!」

2年目の新歓BBQが終わり、観望会に入ります。月がてんびん座にあり、木星と接近していることから2018年4月30日と判断できます(なお、この日は実際に川越で環水平アークが見られた日でもあるそうです)。

みらが「そばに見えるのは木星だよ!」と言っているとおり、この日は月と木星が4.5度程度に近づいて見えていました

「鏡筒の焦点距離が910mm、接眼レンズが15mmだから…えっと…」「このレンズだとだいたい60倍かな」

あおがみらを冷静にフォローするシーンです。望遠鏡の倍率は「鏡筒の焦点距離÷接眼レンズ(アイピース)の焦点距離」なので、910/15=約60.7倍となります。

望遠鏡は過去の話数でも何度も出てきた「ビクセン A80Mf」ですが、このセットに付属するアイピースはPL20mm(46倍) とPL6.3mm(144倍)の2つだけです。7話の観望会のシーンでもこの2つを使い分けていたはずなので、地学部は新年度の予算で15mmのアイピースを追加購入したと考えられます。

アイピースの違いは、望遠鏡を覗いたときの視野の描写にも現れています。4話でつくばでの合宿の夜に地学部で満月を見たシーンと並べてみました。4話の方については、HIROPONさんが月の大きさと望遠鏡の視野の比率がほぼ正確に描かれていることを指摘されています。

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4話・10話の望遠鏡視野内での月の大きさ比較(© Quro・芳文社/星咲高校地学部)

10話のほうが倍率が上がっているので、月は大きく見えています。倍率が高くなるということは、視界の一部を拡大して見ているということです。そのため、望遠鏡を覗いた時に見える範囲である実視界は、倍率に反比例して小さくなります。4話と10話の画面を見比べれば、その違いがきちんと表現されていることが分かりますね。

「コリメート撮影って言うんだ。慣れないと難しいんだけど、七海さん上手だね」

キャプチャ

© Quro・芳文社/星咲高校地学部

ナナが「コリメート撮影(コリメート法)」で月の写真を撮影していました。星の写真を撮るには、特別な機材や技が要求されることも多いのですが、コリメート法はそのどちらも不要で初心者もすぐ実行可能な天体写真撮影法です。

コリメート法の手順は、作中でも描かれたように、望遠鏡のアイピースにカメラのレンズを近づけて、アイピースを覗いた様子そのままを撮影するというものです。カメラは高級でゴツいものである必要は全くなく、手持ちのスマホやコンパクトデジカメを使えます。ただし、手ブレの問題から撮影対象は月や惑星などの明るい天体や一部の二重星に限られます。

コリメート法できれいに撮影するには、アイピースとレンズの距離・角度が適切で、それぞれのレンズの中心が合うように細かな調節が必要です。ただ、液晶モニタでリアルタイムのプレビューを見ながら試行錯誤すれば、初心者でも何とかなるものです。

公開天文台や地域での観望会に参加された際は、コリメート撮影できないか聞いてみるといいでしょう。ある程度調節に時間がかかるので、覗く人が途切れたタイミングがおすすめです。

今週の星ナビ

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部

「星ナビ」が出ないほうが珍しくなってきた恋アスですが、今回もチカの占いのシーンでちらりと登場しました。手前の山の一番上は「星ナビ」2014年12月号で、当時打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」が表紙です。作中は2018年なので随分前の号ですが、きら星チャレンジの応募の参考にするため出してきたのでしょうか?

奥側に1冊だけ置いてある方の本は「星ナビ」ではなく2015年にアストロアーツ(「星ナビ」の会社)が発売したムック『ビジュアル宇宙図鑑 太陽と惑星』でした。こちらも表紙がほぼそのまま再現されています。

まとめ・おわりに

次回からは、いよいよ石垣島でのきら星チャレンジが始まります。これまでとは段違いにマニアックな天文描写が登場しそうで、天文ファンとしてとても楽しみです(その分記事を書く労力は増すわけですが……)。

Twitterでは、今回も望遠鏡が活躍したビクセンさんが恋アスとのコラボキャンペーン第3弾を開始したようです。双眼鏡は、1台持っておけば手軽に星空を拡大でき、たいへん便利ですよ!

本文の正しさの確認及び天体位置推定に関して慶應義塾大学 宇宙科学総合研究会(LYNCS)のmin氏にご協力頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。

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