恋アス8話の天文シーンを元天文部のオタクが考察する
TVアニメ「恋する小惑星(恋アス)」の星空シーンや天文に関わるシーンを検証・解説する記事の第8弾です。まだ観ていない方にはネタバレとなる可能性があります。ご注意ください。
アニメは、木曜日に発売された単行本3巻の内容へ入りました。3巻では、キャラの心理描写がより深まったことで、物語の展開にさらなる厚みが出たと感じました。地学部員それぞれの内面の成長が感じられることで、より彼女らを応援したくなる作品に仕上がっていて今後も楽しみです。
はじめに・おことわり
筆者は中学・高校・大学で8年間天文部に在籍し、現在も趣味として天体観望を行っています。一方で、地質・気象など地学の他分野については中学の授業レベルの知識しかなく、言及できません。ご了承ください。
ご紹介するアニメ中の表現が、現実と異なる場合もあり得ます。本記事の目的は考察を楽しんで頂くことで、アニメの間違いをあげつらうことではありませんのでご注意願います。また、本記事の考察内容に間違いを発見された場合は、コメント欄やTwitter(@kn1cht)までお知らせください。
これまでの考察記事は以下からお読みいただけます。
「驚いたわ、あの子がそんな挑戦を…」「ですよね! 私も参加してみたかったなあ」
© Quro・芳文社/星咲高校地学部
みらが取っ手付きの棒を持っています。これは、地学部の望遠鏡メーカーであるVixenの架台用の微動ハンドルです。地学部所有の「ポルタII経緯台」では、レバーのように引っ張って大きく動かす「粗動」と、ハンドル自体を回転させて少しずつ動かす「微動」を使い分けて導入します。
アニメでみらが持っているのはまっすぐな付属のハンドルですが、短いので操作しにくいことがあります。オプションとして売られている「フレキシブルハンドル」は長さがあり柔らかいので、操作が楽になります(原作コミックではこちらが登場しました)。
「予選本選を突破して、タイの国際大会に行きたいんだって」
日本地学オリンピックについての会話です。筆者は参加したことがないので詳しいことは言えませんが、公開情報を中心に補足しておきます。
国際地学オリンピック(International Earth Science Olympiad; IESO)及び日本地学オリンピック(Japan Earth Science Olympiad; JESO)は、科学オリンピックの一環として実施されている中高生向けの大会です。科学オリンピックには他にも数学オリンピック(IMO)・化学オリンピック(IChO)など多数の種類があり、国内大会での代表選抜を経て国際大会へ選手が派遣される場合が多いようです。
8話の冒頭では、2018年に行われたIESO2018に向けた国内予選に、イノ先輩と桜先輩の妹が参戦することが語られました。アニメのセリフの通り、IESO2018はタイ・カンチャナブリのマヒドン大学(Mahidol University)で開かれました。日本勢は4名が参加し、金メダル3名・銀メダル1名の成績でした(スポーツのオリンピックと違って、科学オリンピックでは成績のランクに応じた人数へ金・銀・銅のメダルが配分されます)。
なお、天文に特化した国際天文学オリンピック(International Astronomy Olympiad; IAO)や国際天文学・天体物理学オリンピック(International Olympiad on Astronomy and Astrophysics; IOAA)も存在しますが、日本はどちらにも参加していません。
「最後は、天文分野」
© Quro・芳文社/星咲高校地学部
予選の問題を解くシーンです。JESOの過去問は、公式Webサイトで解答とともに公開されていますので、気になる方は解いてみてください。
アニメで写った天文分野「第10問 問1」のみ簡単に触れておきます。
日本から皆既日食を連続的に撮影し,太陽の北極の位置を真上に来るように
画像をそろえたとする。また,日本から皆既月食を望遠鏡を使わずに連続的に撮影し,月の北極の位置を真上に来るように画像をそろえたとする。この場合,日食では画像中の太陽の左右のどちらから,月食では画像中の月の左右どちらから欠けはじめるか。最も適切なものを①~④から1つ選び,番号をマークしなさい。
①日食では太陽の右から,月食では月の右から欠けはじめる。
②日食では太陽の右から,月食では月の左から欠けはじめる。
③日食では太陽の左から,月食では月の右から欠けはじめる。
④日食では太陽の左から,月食では月の左から欠けはじめる。
(NPO法人地学オリンピック日本委員会,第10回日本地学オリンピック予選)
皆既日食・皆既月食は、それぞれ太陽と月が完全に隠される食現象です。この2者は全く別のメカニズムで起こります。
日食は月が太陽と地球の間にある新月の時に起こり、地上に月の影ができた地域で太陽が隠れて見えます。
月食は月が地球を挟み太陽と反対側にある満月の時に起こり、地球の影に月が入ることで、月が太陽の光を(ほぼ)反射しなくなって暗く見えます。
ではJESOの問題を解きましょう。前提として、月は公転軌道を北から見て反時計回りに公転しており、地球からは東へ移動して見えます。上の配置を思い浮かべながら地球視点で北を上にした様子に直すと、下の図のようになります。日食では太陽が右から欠け、月食では月が左から欠けるのが分かりますね。よって②が答えになります。
「いつも部室で一緒だからですね」
© Quro・芳文社/星咲高校地学部
「星ナビ」が登場するのももはや恒例ですねw
みらが持っているのは2017年10月号です。表紙は探査機「カッシーニ」が撮影した土星と衛星のタイタンです。当時、カッシーニは「グランドフィナーレ」と呼ばれる最後のミッションを行っており、9月15日に土星へ突入するということで話題になっていました。
「おおーっ、視界広ーい!」
クリスマス忘年会のあとに、屋上で星を見るシーンです。学校は何かと建物が多いので、星空の広い範囲を見たければ屋上に上がる必要があります。筆者も中学の天文部時代に屋上で合宿をしたことがありますが、その後屋上が立ち入り禁止となり、使えなくなってしまいました……。
クリスマスということなので、2017年12月25日の前後だとして星空を再現してみます。21時ごろ、南東の空です。オリオン座、おおいぬ座といった冬の星座の主役たちが南中しています。
Stellarium 0.19.3より
「寒いから、夜空きれい…」
冬は乾燥して空気が澄んでいるので、星がきれいに見える傾向にあります。ただし、空全体に雲がない天候のときは、放射冷却で気温が下がるため寒くなってしまいます。十分な防寒をして星を眺めましょう。
「あれが冬のダイヤモンドね」
「冬の大三角」や「冬のダイヤモンド」のような、星座以外の星の結び方をアステリズムと言います。冬の大三角はベテルギウス・シリウス・プロキオンで、冬のダイヤモンドはリゲル・シリウス・プロキオン・ポルックス・カペラ・アルデバランでそれぞれ構成されるアステリズムです。
冬のダイヤモンドは、冬の夜空に見える1等星6つを繋いだ六角形です。冬の星座には1等星がたいへん多く、豪華な眺めを楽しむことができます。また、6つそれぞれが別の星座に属しているため、冬の星座をそれぞれ解説した後の「締め」に使いやすくなっています。
冬のダイヤモンド(東京大学地文研究会天文部・プラネタリウムにて。手動で調整しているため位置が正確でない部分があります)
「そこにオリオン座のベテルギウスを加えると、グレートGになるそうですよ」
これは恋アスを読むまで筆者も知らなかったのですが、環境省「全国星空継続観察 」の平成12年度の報告に「オリオン座周辺の通称グレート'G'を主体とした星空の解説」とあるなど、以前から解説に用いる人はいたようです。
英語圏でも同様のアステリズムは存在し、"Heavenly G"と呼ばれているようです。こちらのほうがかっこいいですね。
まとめ・おわりに
今回と次回で、恋アスの物語は大きく動くことになります。季節もほぼ一巡りし、より深まっていく地学部員たちの絆と天文知識に期待したいです。
手前味噌ですが、恋アスに対する地学関連の公式アカウントからの反応をtogetterにまとめました。よろしければこちらも御覧ください。
我々ファンとは違った観点から情報を積極的に共有してくださる公式アカウントが増えてきており、ありがたい限りです。
本文の正しさの確認及び天体位置推定に関して慶應義塾大学 宇宙科学総合研究会(LYNCS)のmin氏にご協力頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。