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恋アス6話の天文シーンを元天文部のオタクが考察する

TVアニメ「恋する小惑星(恋アス)」の星空シーンや天文に関わるシーンを検証・解説する記事の第6弾です。まだ観ていない方にはネタバレとなる可能性があります。ご注意ください。

文化祭回です。天文系の文化祭のド定番と言えば自作プラネタリウム(筆者もご多分に漏れず4回ほど関わりました)ですが、天文と地質両方が盛んな地学部ならではの、オリジナリティのある展示が見どころだと感じました。

例によって地質関連のシーンはスキップ(桜先輩の勇姿はちゃんと見届けましたよ!)し、天文班の展示準備のシーンから見ていきましょう。

はじめに・おことわり

筆者は中学・高校・大学で8年間天文部に在籍し、現在も趣味として天体観望を行っています。一方で、地質・気象など地学の他分野については中学の授業レベルの知識しかなく、言及できません。ご了承ください。

ご紹介するアニメ中の表現が、現実と異なる場合もあり得ます。本記事の目的は考察を楽しんで頂くことで、アニメの間違いをあげつらうことではありませんのでご注意願います。また、本記事の考察内容に間違いを発見された場合は、コメント欄やTwitter(@kn1cht)までお知らせください。

これまでの考察記事は以下からお読みいただけます。

「木星素敵よね、模様も衛星も大きさも」

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部

天文班の3人が、太陽系の模型を作りながら好きな惑星・衛星を語り合います。木星は、あおが好きな惑星ということもあって1話・2話・5話にも登場していましたね。衛星に関しても、2話の考察記事でいろいろ書いたので、ここでは引用するだけにします。

ガリレオ衛星とは、その名の通りガリレオ=ガリレイが発見した4つの木星の衛星です。79個見つかっている木星の衛星の中でもひときわ大きいので、四大衛星とも呼ばれます。
しかし、四大衛星なのにアニメ本編では3つしか見えていません。これは、衛星それぞれが公転していて、木星に隠れて見えない時期があるからです。この公転の動きはかなり速く、たった数時間でかなり配置が変わってしまいます。 (恋アス2話の天文シーンを元天文部のオタクが考察する

モンロー先輩が「時間を空けて観察すると、衛星が動いているのが見られる」と発言しているのは、このガリレオ衛星のことだと考えられます。2話の記事でも書いたとおり公転スピードが速いので、一晩のうちにも位置が移り変わるのが分かります。

「これは…山に海にクレーターに…」

モンロー先輩が完成させた月の模型に対するあおのコメントです。月には日本の「かぐや(SELENE)」を含め何度も探査機が送られ、地形は詳細に分かっています。
「山」は地球と同じ意味と考えてよいですが、「海」には別に水があるわけではありません。月の地形のうち、暗い色をした平らな部分を海と呼んでいます。4話のつくばでの観測会シーンで、桜先輩が「暗い部分は玄武岩で出来てるそうよ」と言っていましたが、これが「月の海」のことです。

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月。色の暗い部分が海(2019年10月・筆者撮影)

海にはそれぞれ名前が付いています。アポロ11号が着陸し、人類が初めて月へ降り立った「静かの海」などが有名です。

「月の土地。おばあちゃんのお墓にするのよ」

月の土地を販売する事業は存在します。米国のルナ・エンバシー社が、1エーカー(約4,047平方メートル)あたり2,700円で売ってくれます。購入すると、ちゃんと権利書などの資料が送ってくるようです。

これは一企業が勝手に販売しているのではなく、本当に月の土地の権利を宣言した上で行われています。ルナ・エンバシー創業者のデニス・ホープ氏が、「天体の国家による領有は宇宙条約で禁じられているが、個人の所有を禁じた条項はない」という抜け穴に注目し、月の権利を申し立てたのが始まりだそうです。詳細は同社の「月の土地って?」をご覧ください。

「月の土地の権利書」を持っていたとしても、ほとんどの人が現地へ行ったことがなく所有の実態がない以上、買った人が実際に法的な権利を主張できる可能性は薄そうです。とはいえ、夢のある買い物やプレゼントとして一定の人気を得ています。

「そろそろ中秋の名月ね~」

みらとモンロー先輩が月を眺めるシーンです。この日の月齢については後で言及があるので、後ほど触れることにします。

「中秋の名月」は、一般的には「十五夜のお月見」として有名ですね。定義は「太陰太陽暦(旧暦)で8月15日の夕方に出る月国立天文台暦計算室「暦Wiki」)」となっています。本編の舞台である2017年の名月は10月4日でした。

名月が満月と一致するとは限らず、2014年以降は名月の翌日~翌々日が満月となっていました。これは、旧暦15日は月齢14.0を指し、実際の満月より前になっていることなどが原因です。中秋の名月と満月の関係については、暦Wiki「名月必ずしも満月ならず」に詳しく載っているので読んでみてください。

あおのスマホ壁紙の星空

あおが時間を確認する場面で写った星空のスマホ壁紙ですが、はくちょう座の一部のようです(協力者の方がまっさきに特定してくださいました)。
このアニメ、本当に細かいところにも手を抜きませんね……。

「上弦の月、月齢7.9だったっけ?」

すずちゃんのセリフのおかげで、この準備の日が2017年9月28日であることが分かります。月齢は、3話の考察記事でも触れたとおり、直前の新月からの経過日数を表す数字です。2017年9月の天文カレンダーを見ると、28日が月齢7.9の日にあたるのが確認できます。

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2017年9月28日の月周辺(Stellarium 0.19.3より)

文化祭天文展示① 回転花火銀河

銀河系についての解説ポスターに、銀河の写真が載っています。これは、おおぐま座にある棒渦巻銀河「M101」です。太陽系からの距離は1,900万光年です。見た目の派手さから、回転花火銀河(Pinwheel Galaxy)の別名があります。

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© Quro・芳文社/星咲高校地学部

ポスターには「出典:JAXA HP」と書いてあります。探したところ、「X線で見るダイナミックな激しい宇宙」というページに全く同じ画像が載っていました。

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© 2003 Japan Aerospace Exploration Agency

画像の元ネタは、NASAなどが2009年の世界天文年を祝って公開した「Spiral Galaxy M101」だと考えられます。スピッツァー宇宙望遠鏡による赤外線画像・ハッブル宇宙望遠鏡による可視光画像・チャンドラX線観測衛星によるX線画像をそれぞれ赤・黄・青に着色した合成画像です。

ただ、右側の3枚がJAXAとNASAの画像では異なります。JAXAサイトやアニメ本編では、上の画像と同時に公開された別の画像を利用しているようです。

文化祭天文展示② 太陽系ミニチュア模型

準備で作っていたミニチュア惑星を吊り下げて、太陽系の模型にしていました。あおが「太陽系の距離やサイズの比率を合わせると、教室を飛び出しちゃうので…」と解説しています。
距離やサイズの比率を真面目に再現するとどうなるか……というのは「If the Moon Was Only 1 Pixel」というサイトで体験できます。月を画面上の1ピクセルとして、太陽から順番に天体をスクロールできるのですが、ほとんど真っ暗な画面が延々と続く苦行を味わうことになります。

太陽系小ネタ

太陽系ミニチュアを見ている場面で、太陽系の領域に関する用語が出てくるので、それぞれ軽く説明しておきます。

小惑星帯
火星と木星の公転軌道の間にある、小惑星が集まった領域です。このエリアには、木星の重力の影響により大きな天体ができにくかったと考えられています。

ハビタブルゾーン
恒星系で、水が液体として存在できる領域をハビタブルゾーンと言います。太陽系の場合は、地球がハビタブルゾーンに入っています。地球上の生命には液体の水の存在が欠かせないので、生命が存在するための条件の一つと考えられます。
太陽系外の天体にもハビタブルゾーンはそれぞれ存在し、ちょうどよい位置に惑星が見つかると「地球外生命体がいるかもしれない!」などと大ニュースになります。

エッジワース・カイパーベルト
太陽系で最も外側の惑星は海王星ですが、それより遠方にも太陽の周りを回る天体は存在します。2006年に惑星から準惑星に降格となった冥王星はその一例です。これらをまとめて太陽系外縁天体と呼びます。
太陽系外縁天体の存在をそれぞれ予測したエッジワースとカイパーの名を取り、それらがベルト上に集まった領域をエッジワース・カイパーベルトといいます。
エッジワース・カイパーベルトのさらに外側には、球状に広がる「オールトの雲」があり、ともに彗星が元々あった場所と考えられています。

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オールトの雲のイメージ図(©国立天文台)

おわりに

今回は星空こそほぼ出ませんでしたが、小ネタが多くて執筆が大変でした……。高校の部活レベルであれほど丁寧な展示(に加えてカフェまで!)ができる団体はそうそうないと思います。

メタな話をすると、スマホの壁紙やポスターの一枚一枚まで妥協なく作り込んでくるアニメ制作陣にも脱帽です。来週の総集編を挟んでアニメも後半に入りますが、これからもどんなものを見せてもらえるのか、楽しみでなりません。


本文の正しさの確認及び天体位置推定などに関して慶應義塾大学 宇宙科学総合研究会(LYNCS)のmin氏にご協力頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。

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