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意図なき調べ

からだを纏う皮膚のうえを
幾つもの音の粒が粟立ち流れ
耳孔の奥へと吸い込まれ
深くからだの襞に浸む

皮下の隙間をたどるように
いくつものせせらぎが生まれ
その先の屹立する脊髄に
細やかに滝が流れ落ちる

その限りのない水音に
森の奥の脳波は憩い
遠く焚き火のはぜる音が
絶えなき心音を温める

大小の雨音に濡れながら
臓腑は収縮を繰り返し
鳥や虫の声に谺して
神経線維は伸びをする

そしてこころは……
洞に投げ込まれた小石のように
固く握りしめた意図を手放し
辺りに満ちた音にゆだねる

  *

いくつもの音のつらなりが
 からだの奥へとながれこみ
いくつもの音のさざなみが
 からだを外へとおしひらく

  *

初夏の朝
庭木の洞にも若葉の調べが舞い届き
何も足されず 何も引かれず
そのままの響きで森へと還る

わたしのからだに届く数多の調べも
何も足さず 何も引かず
そのままの響きを内に奏で
そのままの響きで空へと還そう



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