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記憶の蓋をあけるまでもなく

記憶の蓋をあけるまでもなく
そこかしこから沸きあがるけむりの
渦に囲まれて 渾然と
わたしの城が浮かびあがる

ひかりを遮り 煤をはなち
景色を色濃く塗りかえながら
城はゆらめき またたき
刻一刻と姿を変える

けむりの渦は 混然と溶けあって
わたしの城は 蒼然と混じりあって
ひとつの終わりの絵図をつくる

  *

林のかげから
あえかな音色が
きこえてくる

いくすじものけむりが
あえかな音いろに
ゆれなびく

めをとじると
 音いろのおくに
あわくちいさな記憶がうつる

とおくの村から
おびただしい音いろが
きこえてくる

いくすじものけむりが
おびただしい音いろに
ゆれまどう

めをとじると
 音いろのむこうに
かさなりつもる記憶がはためく

ひとりじっと めをとじたまま
ひとつひとつの音いろをききわけ
ひとつひとつの記憶をよりわけ

けむりは ひとすじひとすじ柱のように
まっすぐにそらへたちのぼり
城は ひかりに透けて
そっと繁みのおくに立ち退いて

わたしは素足で そらたちのぼる
けむりのあいまを あるいてゆく

けむりをその手で押しひらくま
でもなく
記憶の蓋をあけるま
でもなく




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