『黒後家蜘蛛の会1』/アイザック・アシモフ著

世のミステリ好きにとって、ココロオドル単語がいくつかあると思う。
嵐、吹雪、館、山荘、孤島、マザーグース、わらべうた、見取図、見立て、倒叙、クローズドサークル…
そして、安楽椅子。

私がこの本を初めて手にしたのは十代の頃だ。
そして、安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)というジャンルのミステリを知った初めての作品だったと思う。
正直、かなりの衝撃だった。

まず…『安楽椅子とは何ぞや?」である。←そこ?(;゚д゚)
いやいや、十代半ばの知識には『椅子』は『椅子』でしかありませんがな。(笑)事実今でも、ミステリ界以外で『安楽椅子』なんて使いませんもの。

こうして私に一つ、新しい単語を教えてくれた『黒後家蜘蛛の会』は、とても贅沢な短編集なのだと、数十年後の今、改めて思う。
だって、言葉だけの手掛かりから真相を突き止める12もの謎が、この一冊に収められているのだから。

『黒後家蜘蛛の会』は、会員である6名とゲスト、そして給仕のヘンリーによって催されている、月に一度の夕食会である。
そこでは、ゲストの持ち込む謎について、皆であれこれ考えを巡らすが、一同と同じ手掛かりを与えられただけでその謎を解き明かしてしまうのは、いつも給仕のヘンリーだった…。

えぇ、この魅力的な設定だけで、私はごはんが三杯いけます!(どーん!)

と、同時に。
会員同士の互いを皮肉った大人の…(或いは)大人気ない会話と、
会のルールである他言無用な話を、盗み聞き出来る読者という立場の喜びが、この短編集には詰め込まれている。(笑)

この『定例メンバー+謎持参ゲスト』という設定は現代でも、石持浅海さんが『Rのつく月には気をつけよう』で、今作を意識されていると私は踏んでいるし、同じくアシモフの『ユニオンクラブ綺談』は、柳広司さんの『百万のマルコ』に受け継がれていると思っている。

言葉から謎を解き明かす『安楽椅子探偵』、ヘンリー。
でも正確に言うと実は、この物語の中でヘンリーだけが椅子に座っていないって…誰か気づいてます?(笑)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?