HPVV接種におけるStorytellingについて
HPVワクチン(Human papillomavirus vaccine:HPVV)について、令和3年11月26日に厚生労働省から通知があり、積極的勧奨が再開されることになりました。日本ではHPVVの接種が非常に遅れているため、これから接種を促していくことが必要です。
https://www.city.saitama.jp/008/016/001/005/p013029_d/fil/sekkyokutekisaikai.pdf
産業保健現場でも、HPVVについての情報を発信していく必要があると感じています。こちらについては、ガチ産業医先生のnoteが非常によくまとまっているので紹介させていただきます。
では、今後どのようにHPVV接種について促進していけばよいでしょうか。
私は行動変容やマーケティングの専門家ではありませんが、産業医活動をしていて感じることがあり、HPVV接種の促進について考えを述べさせていただきたいと思います。
ワクチン接種に限らず、相手への信頼関係構築や行動変容についてはナラティブな要素が必要だと感じています。これは「物語に基づいた医療(ナラティブ・ベイスト・メディスン: NBM)」に通じるところがあります。
医療者は医学モデルで説明をしますが、非医療者はその病気が生活の文脈と一定の結びつきを持っている、という別の解釈モデルを持っています。相手の解釈モデルという物語に添うと、効果的に行動変容を促すことができます。
ワクチン忌避というのは、その動機づけとなる物語が共有されているということになります。一時期話題となったMMRワクチンと自閉症との関連、HPVVワクチンによる痛みの例などです。MMRワクチンと自閉症との関連については、論文が捏造であったのにも関わらず、そのインパクトは今も人々に影響を与えています。
これらに立ち向かうには、ワクチン接種をすることによって、どのように対象の物語がより良く変化していくかを伝えていく(Storytelling)必要があると感じています。公衆衛生における物語の有用性についてはいくつか文献もあり、オンラインベースのStorytellingビデオにより韓国系アメリカ人女性のHPVVに対する知識、態度が向上したというRCTもあります。
他にも、メキシコ系アメリカ人女性を対象として、Narrative Basedな動画(Tamale Lesson)を用いた活動もあります。
LancetにもStorytellingについて話題が上がっています。物語というものは定義しにくい、不正確に伝わる恐れもあるため難しいですが、産業保健現場でも活かせると良いのではないかと思います。
Storytellingを活かすことについては、産業保健現場でどのように伝えるかということは課題でしょう。WHOやその他公的機関の動画を単に翻訳して流すだけでは、相手には伝わらない可能性がありますので、やはり職業に関連した物語性のある動画が必要かと思われます(例えば、35歳働き盛りに子宮頸がん告知となった、仕事を辞めざるを得なくなったなどの物語を取り入れる…などでしょうか)。
公衆衛生分野におけるStorytellingの理論、介入への知見が増えていくことに期待したいと思います。