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”音楽という喜び”を学びに韓国へ。
世界が近くなったと言われ、留学に行く人も来る人も増えている時代。今後ますます加速すると思われるこの国際化の中、世界を舞台に仕事をする日本人がいます。
ロッテワールドタワーと漢江を望んで
韓国といえば、”漢江の奇跡”と称される急速な経済成長を果たした隣国。そのクラシック音楽界は、お国柄といえる教育熱に裏付けされた表現力と技術を持つ演奏家を数多く輩出しており、ピアノやヴァイオリンを筆頭に、世界中の名舞台に韓国人演奏家たちが立ち続けています。特に2015年のショパン国際ピアノコンクール覇者、チョ・ソンジンの名は記憶に新しいところ。そんな日本から一番近い外国、韓国で奮闘する澤村隼さんの軌跡を辿ります。
(取材・前田)
自己紹介
関西出身、現在韓国在住のテューバ奏者、澤村 隼(サワムラ ハヤト)です。大阪音楽大学音楽学部を卒業と同時にザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団(日本オーケストラ連盟 準会員)に入団。
現在はオペラハウス管弦楽団の演奏業務をこなす傍、韓国・大田市立交響楽団(テジョンフィルハーモニック)のゲストプレーヤーとして招かれ、一時的に韓国にて生活をしております。
ーーー大田市立交響楽団とは
ソウルから高速鉄道KTXに乗って約1時間、韓国の中部地方に位置し、人口約153万人を擁す大都市・大田広域市によって1984年に設立された公立のオーケストラ。海外での演奏活動や芸術監督や常任指揮者などの主要ポストに外国人を招くなど、積極的な活動に韓国国内を中心に注目度が高まっている。
(参考:대전시립교향악단 - 소개)
アジアの若者たちと過ごした夏
香港演藝學院にて
2017年にアジアユースオーケストラというアジアの若者の中から、オーディションで選ばれたメンバーで公演ツアーをするアカデミーに合格をいただきました。僕が参加した時はワールドツアーを行う年で、2ヶ月半、国籍の違うメンバーと共に過ごし、世界中を旅し、演奏するという経験をさせていただきました。
2017年夏、ベルリン・コンツェルトハウスにて
アジアという枠ではありますが、そこで様々な国籍のメンバーと音楽をしたり、会話や生活をしていく中で衝撃的に感じたことが2点ありました。
1つ目は日本人としての誇り、素晴らしさ。
そして2つ目は日本人としての視野の狭さ。
この抽象的ではありながら、衝撃的な2点を若干23歳の自分はツアーを通じて感じさせられることになったのです。
アジア各国から集まったメンバーたちと
日本の技術は今や世界トップクラス。
それはどの業界でも認められていることであり、音楽の世界でも例外ではありません。オーケストラワークやマナー、アンサンブルの技術に関しても日本人はトップクラスを維持できていて本当に素晴らしいと思います。実際それの恩恵を受ける場面は沢山あり、ツアーを通じて、改めて日本人としての誇りを感じることもできました。
当時の日本人メンバー
僕が韓国行きを決断した理由
ただ、何故か他の国の若者達と音楽をした時にとても閉塞感を感じたのです。それは何故なのか?青二才の僕は無い頭を絞って必死に考えました。そこで1つの答えにたどり着きました。
音楽は本来"楽しんで"やるもの。
誰もがその喜びを意識して楽器を演奏したり、歌を歌い始めたのが起源のはずなのです。
しかし、いつのまにか日本という社会で生きる中で僕らにとって音楽というものが同調社会のツールの1つに"なってしまっていた"ということに気付かされました。要するに自分には"オリジナリティ"のある発想がカケラも無かったのです。
これが「自分はなんてつまらない狭い世界でコジンマリと音楽をしている"つもり"になっていたんだろう?」と深く考えさせられるきっかけとなり、世界へ目を向け始めるきっかけともなりました。
2017年夏、イタリア・ラヴェッロにて
その後、運の良いことに某先生から関西弁でいう
"君えぇやんけ?ちょっと韓国のオケ来て吹いてみぃひんか?"
という有難いお誘いをいただき、これはチャンスや!と。
日本という枠の外へ飛び出して音楽という喜びを更に学ぶため、韓国行きを決断しました。
仕事で韓国へ行きます。
— Hayato Sawamura 하야토/Tuba (@tuba_sawamura) April 14, 2019
帰国は7月の予定(今のところ)
ご用の方はLINEかインスタ、フェイスブックで連絡してください!
3ヶ月帰ってきません!たぶん笑
緊張するわ…バイバイニッポン🇯🇵 pic.twitter.com/3Jhd5jbiYz
韓国のオーケストラは
まず自分がゲストとして呼ばれた理由は「とにかくトロンボーンセクションが合わないから、合うように先導してくれ」と。笑
練習場にて
ただ実際一緒に吹いてみるとそんなこともなく、とても伸び伸びと演奏をしている印象を受けました。もちろん粗はあるのですが、良くも悪くも謎の独特な緊張感みたいなものが無くて、とても演奏しやすいです。
マーラー7終演。
— Hayato Sawamura 하야토/Tuba (@tuba_sawamura) June 22, 2019
とても難しかった…集中力が限界になる頃にうまくTACET(4楽章)がくるようにできていて助かった。マーラーありがとう…?いや、ソロ多いわ🤛笑
魂のこもった演奏にFinale後はスタンディング。聴衆もとても熱かったです🔥ローブラスセクションと写真。厚底ブーツ買うわ…👞Thanks guys!! pic.twitter.com/OxeMfoxQlZ
国民性なのか、演奏がヒートアップすることがあり、良い意味で刺激を受けています。むしろ学ばせてもらってる場面の方が…笑
もちろんオーディエンスもとても熱狂的です。笑
大曲が終わった時のブラボーとスタンディングが毎回すごい。
読者の皆さんへ
日本はとても裕福な国です。なので、ほとんどの事柄を自国解決できる…できてしまうという性質を元から持っています。この恵まれた状況下で、なんとなく生活してしまっている、なんとなく行動をしてしまっている人がまだ多いのではないかと思います。
もちろんその中にもとても良いことや素晴らしいことは沢山転がっています。ですが、恵まれた状況下であるからこそ、視点を変えて物をよく見てみることがこれから重要になるのではないかと僕は考えています。
「へぇ〜」と思っているそこの貴方の気持ち、とても分かります(笑)僕も数年前まで、へぇ〜と思って見ている側でした。"百聞は一見にしかず"ということわざはよく言ったもので、実際に触れてみるのと、聞くのでは全く感覚が違うことが多いです。
韓国の玄関口・仁川国際空港
「まあなんとなく〜」ではなく興味を持ったものに沢山触れに行ってみると、貴方の世界が明日から変わるかも知れません。知らんけど(笑)
ぜひ色々な新しいことに触れて、挑戦してみてください〜!
澤村隼
兵庫県神戸市出身。神戸市立六甲アイランド高等学校を経て、大阪音楽大学音楽学部を首席で卒業。同大学卒業演奏会に出演。在学中、第27回ザ・コンチェルトコンサートに出演。牧村 邦彦氏指揮 ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団とR.V.ウィリアムズのバステューバのための協奏曲を共演。第24回日本クラシック音楽コンクールテューバ部門大学生の部第1位。第22回KOBE国際コンクールC部門第3位。第21回浜松国際管楽器アカデミーにてA.Jフィサー氏のマスタークラスを受講。講師陣推薦ヴィルトゥオーゾコンサートに出演。第32回ヤマハ管楽器新人演奏会、第57回関西新人演奏会に出演。これまでにテューバを岸本拓也、潮見裕章の各氏に、室内楽を池田重一氏に師事。ネクストコーナーテューバカルテット、アジアユースオーケストラ2017 ワールドツアー 各メンバー。2019年度より、韓国テジョンフィルハーモニックオーケストラ客演首席奏者。2016年度より、ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団テューバ奏者。
◇
最後に
内向き志向だと言われ続けて久しい日本人は、決して日本国内だけが舞台ではないことを忘れがち。国内市場が縮小の一途を辿る今、音楽家にもより一層幅広い視野が求められています。
何より未知の病に世界中が危機に巻き込まれている今。一刻も早い収束と、無事に国境を越えられる日を待ちたいと思います。そうした今も、韓国の地で日本人一人戦い続ける隼さんの今後の活躍が楽しみです。
取材:前田 直哉
鹿児島県出身。9歳からサクソフォンを始める。第17回日本ジュニア管打楽器コンクール銀賞(第2位)受賞。第23回日本クラシック音楽コンクール1位なしの2位。第22回KOBE国際音楽コンクール優秀賞を受賞。第20回大阪国際音楽コンクールエスポワール賞を受賞。アジアユースオーケストラ2018の一員として、アジア11都市を巡るツアーに参加。2019年12月、韓国ソウルにて「Amuse Saxophone Ensemble 創立演奏会」にゲストとして参加。「Bridge ~関西×学生×音楽のためのカルチャーメディア~」note版ライター。これまでにサクソフォンを土田まゆみ、有村純親、國末貞仁、須川展也、本堂誠の各氏に師事。京都市立芸術大学音楽学部音楽学科管打楽専攻卒業。
問合せ:maedanaoya.sax@gmail.com
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