押しつけ読書のすすめ/乱読の実現に向けて
書けるようになるためには読まなければいけないらしい
それは、書くことの手引き本で必ず語られる真理の一つ。そして、多分その次くらいに言われているのが「乱読が大事」ということである気がします。たくさんの本を読む多読に対して、乱読とは、いろいろなジャンルのさまざまな著者の本を広く読むこと。
例えば私は江國香織の小説が好きで、好きに読書をしなさいと言われたら彼女の作品をまず手に取ってしまう。だけどそれは、読みたい文体・読みたい温度のストーリーを楽しむためのエンタメ読書なのです。江國さんの文体オマージュや作品考察を目指すならいざ知らず、ライターとしての地力を培うというか引き出しを増やすことを目的とすると、確かにちょっと効率が悪い。同じ10冊を読むなら10人の作家の本を読んだほうが、10通りの文体や構成パターンを味見できるメリットがあると言えます。
だから、脈絡なく、好みに関わらず、乱れ読むことが大切。
でも、それって本選びがまずむずかしいよね……という問題について、参考になれば! というのがこの記事です。
人に選んでもらおう! ただし、無責任に。
自分で選ぶと偏るから人に選んでもらおう、という簡単アイデア。前置きが長かった割にシンプルな手法ですが、1つだけ大事なルールがあります。それは、選者自身が未読のものを選ぶということ。「これおもしろいから読んで」ではなく、「何となくだけどこれ読んでみて」と押し付けてもらい合う。
まずは1人以上の同行者と一緒に、大きめの本屋さんへ。あとは制限時間以内に「内容は知らないけど読んでみてほしい本」を1冊選んで再集合し、相手にプレゼントするだけ。
渡すときは、その本を選んだ理由を簡単に添えられるとより良いかもしれません。受け取る側が読んだことのある本だった場合を除いて、選び直しはなし。なお、3人以上いる場合は、プレゼント先をあらかじめ決める・決めないのルール次第で2通り楽しめます。
相手に押し付ける本を選んでみると、自分がいつもよりすみずみまで集中して本棚を物色していることにきっと気がつくはずです。例えば見慣れた通勤電車からの景色、その中に踏切がいくつあるか数えてと宿題を出されたみたい。こんなにたくさんのタイトルを、知らず知らず景色として処理していたんだと驚くはず。
気になるテーマだけど気恥ずかしくて敬遠していた自己啓発本。あまりに話題になっているのでほとぼりが冷めるのを待っていた小説。今さら読んでいないとは言いづらい古典作品。POPにやたら書店員さんの気合が乗っている一冊……。
本を選ぶときの意識レベルのようなものを階層分けしたとすると、自分に一番近い第一層は、何度も繰り返し読んだ物語や好きな作家の本。
そして第二層は、いつもより少しだけフラットな気持ちで、今まで買うほどではなかったけど実は気になっていた本。これが相手に押しつけるために選ぶ本です。たとえそれが相手にとってまるで興味のない分野のものだったとしても、読み進めるのがつらいレベルだったとしても、問題はありません。だって目的は乱読なのです。むしろ、好みや関心から遠いほど感謝してほしいくらい。
そしてこのゲームの最後に自分の手元に残るのは第三層、自分がついさっきうそうしたのと同じくらい無責任に他人が選んでくれた一冊。
いざ、乱れ読み
最近実施した押しつけ読書で私が巡り合った本は、アメリカの臨床心理学者が書いたライフプランニングについての訳書でした。自分が自分のために選ぶ方法でこれに出会うには何十年もかかったかもというほど、普段の読書範囲から見て飛び地にある本です。率直に言って苦手なジャンル。押しつけられは大成功です。
もともと早くない読書スピードがさらにがくんと落ちて修行のような気持ちで読み進めていますが、これはまさに修行なのだからと何度も気合を入れ直しつつ読んでいます。いつかこの読書体験が、自分の血肉になってくれることを信じて。