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陸軍中野学校外伝

『陸軍中野学校外伝~蒋介石暗殺命令を受けた男』 伊藤祐靖 2023/10 角川春樹事務所

陸軍中野学校と言えば、まず真っ先に想起するのが、太平洋戦争が終わった後もフィリピンのジャングルに29年もの間、潜み、闘い続けていた小野田寛郎さんであるが、本書の主人公、伊藤均、この男も凄かった。

本書、こういう男の存在を知れただけでも、もう十分なのに、読み物としても面白いのだから、たまらない。

著者は主人公である伊藤均の息子、伊藤祐靖氏。この方も元自衛官で、海上自衛隊に特殊部隊を創設した現代日本においては規格外の人物なのだが、お父さんはもっと、ぶっ飛んでいたことを本書で知ることとなった。

なにせ、小学生の時点で、ニトログリセリンを自ら製造し、近所の橋を爆破してみたり、中学生になると北海道へわたり、単身でヒグマ猟にのぞみ、2メートルの至近距離まで近づき、ヒグマを撃ち倒したというのだから、まるで漫画の世界だ。

また、戦争が終わった後も、息子(作者)を連れて、橋の下で蒋介石暗殺の為の射撃訓練を蒋介石が死去するまで続けていたともいう。

幼少期、化学者となりノーベル賞を取ることを夢見ていた均は、戦後は官僚となり、技術立国を掲げ、筑波研究学園都市の創設に大きく関わったという。

自分の果たせなかった夢、そして、志を未来の日本に生きる者たちに託しているかのように自分は受け取った。

同じく中野学校の卒業生であった小野田寛郎さんも野外活動を通して「生きる力」をはぐくむ「小野田自然塾」の活動を晩年まで続け、明日を生きる子供たちに自身の培ってきたものを伝えていたことを思い出した。

それにしても、小野田寛郎さんにしても本書の主人公である伊藤均さんにしても、本当にいい顔をしている。
共に写真でしかその顔を知ることはないが、老いてもなお、澄んだ美しい目をしていた。
十全に生き切った者だけが持てるまなざしなのであろう。
いつか自分もあんな目を持つことができるのだろうか。
そう、願ってやまない。

「なんだ、お前は死刑になるくらいのことで、止めるのか。死刑になったっていいじゃないか。死刑になろうが、やらなければならないことはある。死刑になる程度のことで止めるな。やれ」

伊藤均



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ぴんぱ
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