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強育論

『教育論』宮本哲也 2004年3月刊 ディスカヴァー携書

今年2月に娘の中学受験が終わったこともあり、中学受験を振り返る中で、最も参考となり、今まで数百冊は読んできた教育関連の書物の中で、5本の指に入る面白さであったのが、本書『強育論』でした。

著者は都内にて算数教室を主宰する宮本哲也氏なのですが、氏が主催する宮本算数教室、非常にユニークな教室となっており、通う生徒の受け入れは無試験先着順となっており、定員に達すると欠員がでるまで、入塾できません。

大手塾のように教室が複数あるわけでもなく、宮本先生が通塾する生徒を皆みているとのことなので、納得なのですが、驚くべきはその実績で、通塾していた生徒の85%が首都圏のトップ中高一貫校(開成、筑駒、桜陰、フェリス等)に進学しているのです。

本書ではその宮本算数教室で実践されている指導法や理念が記されているのですが、本書を読み、すべてに納得することばかりであったので、「うちの娘の受験もこれでいこう!」と即断し、宮本先生を心の師と仰ぎながら、娘の中学受験生活をフォローしていった次第です。

宮本先生の教育理念の一つに「学習は本能である」ということが挙げられます。ゆえに、どんな子でも必ず、成長し、伸びるというのです。ただ、その本能を阻害し、破壊する最も強力な存在が親であり、愚かな大人たちであると喝破しておりました。

氏は以前、大手中学受験塾のSAPIX横浜初代教室長も務めていたそうですが、教える側が子供たちへの学習量を減らし、余分な力を抜けば抜くほど、子どもたちが伸び、成績が上がってゆくことを実感したそうです。

そして、中学受験に失敗した家庭を見てみると、そのほとんどが勉強のやらせ過ぎにあったとも語っておりました。

子どもの生命力をすり減らすような勉強はやめにして、子どもたちの本能ともいえる知的欲求を十分に満たし、中学入試を子どもの自立を促す手段として活用することが本書では提言されております。

ゆえに、睡眠、食事、運動が最優先で学習は4番目でなければならないし、そうでなければ学習もうまくいかないと記されておりました。

では、実際に宮本算数教室でどのような授業が行われているのかというと、子どもたちの知的欲求を刺激してやまない、宮本先生が独自で作成したパズルが授業の最初にまず用いられるとのことでした。

また、カリキュラムも一切伝えず、ヒントや解法も教えることなく、最初から問題を解かせ、子どもたちを試行錯誤させるのが狙いだというのです。

これにより、子どもたちに頭を使い続ける資質を身につけさせ、一つのことに集中し続けることのできるこらえ性を養ってゆけるといいます。

本書を読み終えた私も早速、この市販されていた宮本算数パズルを購入し、やってみたのですが、確かに試行錯誤しなければ、大人でも解けない問題も多数あり、時に娘と競いあいながら、解いたことは今でも大変、よい思い出となっております。

このパズルには当時、低学年であった娘もハマり、結局、市販されていたパズル集はすべて買うこととなり、算数嫌いになることも当然、ありませんでした。

職業柄、宮本先生は「効率的で無駄のない勉強のやり方を教えてください」と質問されることがあるそうですが、これは「失敗、挫折といった無縁の成功だけの人生をおくるにはどうすればいいのですか?」という質問と同じくらい世の中をなめ切った質問と切り捨てます。

ゆえに多くの学校、塾で行われている「手順暗記型学習」ではなく、一見、非効率にもみえる「試行錯誤型学習」を実践し、人が人として生きていくために必要な本質的に考える力を育くむことを何より重視するのです。

また、宮本先生は「優」と「強」どちらの字が好きですか?と投げかけます。

最近の多くの保護者が「優」を選び、「思いやりのある優しい人間になってほしいです」と答えることに「NO」を突き付けるのです。

だいたい、思いやりのある優しい人間とはどういう人をさすのでしょうかと。

電車の中で、他人に席を譲ることなどは優しさというより、常識であり、困っている人や苦しんでいる人をその人の立場に立って助けられるひとは、自らも困難に直面し、それを乗り越えた人。つまり、大切なのは優しさではなく、強さであると断言します。

そして、この強さに対する誤解が子供たちをひ弱に、ダメにしていると言いたい放題です。

また、教育とは、子どもに生きる術を身につけさせることなのだから「ゆとり」など、もってのほかで、野生に生きる動物たちは真剣に命がけで子育てを行っていると激を飛ばします。

そもそも教育とは厳格なものであって、受ける側も施す側も襟を正し、背筋を伸ばして真摯な気持ちで臨まねばならないとし、宮本算数教室は常に、ピリピリと張りつめた緊張感が絶えない真剣勝負の場であるといいます。

ほかにも「弱虫ママの負け犬語録集」というコーナーもあり、爆笑しながら、読んでおりました。

宮本先生の歯に衣着せぬ物言いに不快感を表す人も一定多数いるかと思われますが、どれも子育てにおける本質の一面をついており、中学受験をするしないに関わらず、子育てをする保護者の方は一読の価値があるかと思われます。

中学受験にとどまらない教育の本質が本書には記されております。

「このままでは国が滅びてしまう!」という危機感を持ち、教育の最前線に立つ憂国の士の一人でもあると考えております。

今後の日本の未来を考える上でも、教育は何よりも重要さを増してゆくことは言うまでもありません。

以下、宮本語録の抜粋となりますが、琴線に触れた言葉が一つでもあれば、どうか本書を紐解いてみてください。

「聞くは、一生の損。ひたすら考えましょう。安易に人に質問したり、解説に頼ってはいけません」
「子どもを育てるということは、生き方を伝授すること」
「修復可能ならば、身体の傷も心の傷も子どものうちにどんどん負わせましょう」
「仕事は生活費を稼ぐためではなく、自分を表現するために必要」
「学力は、問題が解けるから伸びるのでもなく、解説が理解できるから伸びるのでもなく、頭を使い続けるから伸びる」
「楽は損!」
「学力をつけるのは筋力をつけるのと同じです」
「向き不向きは得手不得手ではなく、好き嫌いに一致します」
「努力の見返りは成功ではなく、成長」
「優しさより強さを」

なお、我が家の中学受験ですが、宮本算数教室に通うことはありませんでしたが、宮本先生の教えをもとに、親の余計な関与は極力行わず、娘の好奇心の求めるままに、本や漫画だけは制限を設けず購入し、休日には美術館、博物館、映画やキャンプ、そして書店を回るという日々を過ごしてまいりました。

すべての受験校に合格できたわけではありませんでしたが、志望校に進学も決まり、宮本先生の教えに現在、深く感謝している次第です。

そして、なによりも、今回、子どもとの関わりを通じて、最も自分自身が成長できたなあ、と実感しております。

中学受験は終わりましたが、娘の成長、そして、自分の成長を、これからも見守っていこうと行こうと思います。

「一年の計は穀(こく)を樹(う)うるに如(し)くはなく、十年の計は木を樹うるに如くはなく、終身の計は人を樹うるに如くはなし」菅子


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