海と真珠
『海と真珠』梅田みか 2012年3月刊 角川春樹事務所
本書、『海と真珠』は数々の恋愛ドラマの脚本や恋愛小説・エッセイを世に送り出してきた作家、梅田みかの書いた小説となります。
いわゆる恋愛モノと呼ばれるジャンルは映像、活字問わず、触手がなかなか伸びないのですが、たまたま手に取った本書、よかったです!
みずみずしい青春の一幕が丹念に描かれており、主人公の葛藤や迷いはあるものの、最後まで清涼感に包まれた稀有な物語でした。
主人公は中学三年生の一之瀬舞と戸田里佳子の二人です。
性格も家庭環境も大きく異なる二人はある日、バレエスクールで出会い、「海と真珠」と呼ばれる演目を一緒に踊ることとなり、二人が舞台に立つまでの数か月を描いたのが本書の主な内容となります。
著者は幼少期よりバレエを学んでいたそうで、本書、バレエ用語が頻繁にでてきますが、バレエに関してはド素人の私でも十二分に楽しめ、実際にこの「海と真珠」の演目が見てみたくなってしまいました。
バレエに限りませんが、人がひたむきに何かに打ち込み、自己の人生を捧げる姿には本当に心をうたれ、言葉を失います。
それがまた、まばゆいばかりのピュアな10代の少女たちで、それぞれが困難をかかえながら、一つの演目を踊ることに全身全霊をかけて挑んでいく姿は貴い以外の言葉がありません。
このような青春を送った者は本当に幸せといえるのだろうと感じ入るばかりでした。
途中、気になる異性の存在も本書に花を添えますが、主人公の彼女たちの眼差しは常にバレエに向かっています。
ボクサーのようなストイックさで日々のレッスン、舞台にかける彼女たちの姿は凛としていてとても美しく思えました。
また、二人を支えるそれぞれの母親たちの姿も忘れられません。
この二人の母親もキャラクターがまったく異なるものの、非常に魅力的に描かれており、影の主人公ともいえ、いい味を出しているのです。
バレエを通じて、異なる二つの家族の在り様を描いた物語ともいえます。
本書、著者にしては珍しい恋愛色の薄い物語であったと思われますが、久々に読んだ一級の青春小説でした。
清々しい気分を味わいたい方、ひたむきさを取り戻したい方は一度、手に取ってみては如何でしょうか。
二粒の真珠がきっと思い出させてくれる筈です。
「才能は神が与えるけれど、努力はその人を天才に変えてくれる」 アンナ・パブロワ (バレエダンサー)
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