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令和6年9月読書

『エブリシング・バブル 終わりと始まり―地政学とマネーの未来2024-2025』 エミン・ユルマズ  プレジデント社

トルコ出身のエコノミストである著者が語る地政学を通じた世界経済の未来と日本の展望。

バブル崩壊以降、「日本経済は終わった」という悲観的な論を耳にすることが多いが、「そんなことはない」と著者は語り、日本経済が直面するリスクとチャンスをフェアに論じていた点に好感がもてた。

また、本書では日本経済の黄金期の到来を予測していたが、自分は一度、大きな破綻、混乱を経て、やってくるのではないかと予想している。


『受験合格は暗記が10割』 林尚弘  幻冬舎

授業を行わないという手法で、最近、急速に教室を全国へと拡げている話題の武田塾塾長の著書を読んでみた。

武田塾では名著とよばれる参考書、問題集を使用し、学習方法、学習管理を生徒の志望校にあわせて、個別に行い、自学自習できるように導く運営を行っているわけだが、非常に理にかなっていることが納得できた。

また、その自学自習の根本にあるのが暗記であると断言していることも清々しかった。

本書はその暗記術にフォーカスしており、効率の良い暗記方法が記されており、これは受験勉強以外にも応用が利くなあと感じたのも事実。

とくに参考書は「タイプ別」に暗記するのがよいとあって、下記の5つに分かれて紹介されていたのが、よかった。

1 基本中の基本、英単語の暗記 ~「単語系」参考書

2 「なぜその答えになるのか?」を説明できるようにする ~「文法系」参考書

3 数学は「解ける」「わかる」「思いつく」の3ステップ ~「数学・理科系」参考書

4 「読むため」ではなく「解くため」に覚えよう ~「文章読解系」参考書

5  辞書代わりに使って理解を深める ~「講義系」参考書

しかし、このメソッド、大学受験におけるモチベーションの高い高校生に対おいて、有効な手法であって、学年が下がるにつれて、対象となる生徒が限られてしまうであろうことも予想できた。

ただ、受験生時代、暗記は本当に苦手であったので、本当にこのやり方を知っていればとも思った。


『お金と自由をもたらす最速の稼ぎ方』 船ケ山哲  徳間書店

「逆説×非常識×短期達成」をテーマにしたビジネス本。

タイトルは生臭いが、自分にとって、有益な情報が2点あった。

一つは商売を始める際、「商品ではなく価格から入る」というもの。

もう一つが金銭感覚をかえるために、「帯付きの札束を持ち歩く」というものであった。

まったく、自分には全くない発想であったので、非常に衝撃であると同時に、なるほど!と膝を打った。

以下、目次となるが、本書に記されていた6つの成功法則も非常によかったため、あわせて記す。


目次

1 借金2000万円から、わずか1年で「億」を稼ぐには理由がある

2 固定概念を破壊し、新たな常識を脳に刻み込め

3 誰でもできる1億円マインドの育て方

4 1億円を稼ぐために外せない成功法則

5 1億円を稼ぐ秘訣は、逆算思考

6 価値をお金に変える仕組み

7 ビジネスを永続的に安定させる拡張戦略


法則

①商品ではなく価格から入る

②すでにある市場を見極める

③感情を排除して価格を決める

④ライバルのサービスを研究し尽くす

⑤お金に対するブロックを介抱する

⑥相手の願望を徹底的に叶える


『瞬考』 山川隆義  かんき出版

副題には「メカニズムを捉え、仮説を一瞬ではじき出す」とあり、エンジニア出身の異色の経営戦略コンサルタントが記した思考メソッド、仮説の創り方が開陳されていた。

最近、四季報写経に興味をもち、調べていたら、この作者にたどり着き、早速読んでみたところ、面白かった。

非常に示唆に富んだフレーズが本書、散りばめられていたので、列記する。

「みんなが気づいていなくて、気づくべきことが面白い仮説である」

「求められる仮説とは『相手が知らなくて、かつ、相手が知るべきこと』をねじり出すこと」

「時間軸を長くとり、かつ、広範囲な視点で物を考えることで、斬新な仮説がはじき出せる。これは『一を聞いて十を知る』といった状態だ」

「一を聞いて十を知るの境地に至るための方法。それは、一を聞いて十を調べることである」

「AIをうまく使いこなすには、「何をやるか」という目的の設定が重要となる。目的の設定のためには、「何が課題か?」を把握する仮説スキルが求められる」

要するに本書でいう「瞬考」とは仮説を導き出す思考法であり、その仮説を導き出すためには大量のインプットを経たアナロジカルな能力が必要ということであった。

これからのAI時代には、ロジカルな思考法以上に、アナロジカル(類推)な能力が必要とされていくため、この能力を磨くためにも必要なのが、大量インプットであり、四季報写経ということなのだ。

著者はシステムエンジニア時代、あまりに仕事が暇で、上司から四季報のエクセルへの転記を命令され、仕方なく始めたというが、この大量インプットがコンサルタント時代に大いに役立ったと語っていた。

四季報写経、早速、始めてみたい。

目次

第1章 仮説が湧くのは「知っている」から
(YOASOBIはなぜヒットを連発できるのか?;丸腰で飛び込んだコンサルティング業界)

第2章 一瞬で仮説をはじき出す「瞬考」(瞬考のポイント;これができれば、コンサルティングファームでパートナーになれる)

第3章 瞬考の実践例(DXの次に来た新規事業の波;DXが進むとIPに富が集約される )

第4章 瞬考とビジネスプロデューサー(IT原理からキャリアの打ち手を考察する;半導体の世界で起こったことがリアル世界に反映されつつある)


『時代を切り拓いた女性たち ~国境を越えた14人の闘い』 原野城治   花伝社

今まで読んできたジェンダー、フェミニズム関連のもの中で、最もよかった。そして、面白く、感動した。

津田梅子、大山捨松、川上貞奴、三浦環、クーデンホーフ光子、相馬黒光、平塚らいてう、市川房枝、山田わか、李香蘭、李方子、加藤シヅエ、沢田美喜、緒方貞子

上記、14名の女性たちの生涯が凝縮して記されており、また、彼女たちの人生がそれぞれの生涯のある時期に交錯し、お互いに影響を及ぼしていたエピソードなども知れ、胸が震えた。

最近よく耳にするジェンダー論は、生き方のぬるさ、功利に端を発する論者の品性の下劣さ、卑しさを感じてならない。

本書にて紹介されていた多くの女性たちからは、そのことを全く感じることがなかったのが、清々しく読めた要因の一つであろう。


目次

第1章 女子米国留学生たちが築いた道(女性教育に「光とカ」を与えた津田梅子;貴婦人・大山捨松と「鹿鳴館時代」の葛藤)

第2章 世界へ飛翔した女優とプリマドンナ(米欧に大旋風 度胸芸者の女優・川上貞奴;『蝶々夫人』とプリマドンナ三浦環の天衣無縫)

第3章 孤高の国際結婚、反骨の亡命者庇護(「汎ヨーロッパの母」 クーデンホーフ光子の孤高;亡命者庇護の“肝っ玉おっ母”相馬黒光)

第4章 女権解放を駆動させた3人の女(「女の時代」の扉を開けた“先駆者”平塚らいてう;婦選実現の市川房枝が貫いた“不器用”;苦界から這い上がった評論家・山田わか)

第5章 激動の昭和 流転したふたりの「李」(「日満」の幻想に翻弄された大スター李香蘭;「日鮮融和」に翻弄された悲劇の王妃・李方子)

第6章 戦後民主化への歩み(占領下の女性政策に深く関与した加藤シヅエ;「混血児」という戦後処理に挑んだ沢田美喜;「小さな巨人」と呼ばれた緒方貞子の自然体)


『旅人かへらず』 西脇順三郎  講談社

詩集を久しぶりに一冊、読み通した。

日本現代詩の最高峰ともいわれる西脇順三郎の『旅人かへらず』

今月、行ってきた北陸旅行の旅の友として、列車内にて読み終えた。

福井まで、北陸新幹線でゆき、あとはローカル鉄道とバスを乗り継ぎ、福井と石川の山中にある「平泉寺白山神社」と「白山比咩神社」に参拝することが今回の旅の一番の目的であった。

本書の128段にこんな一節があった。

「何者かの投げた 宝石が 絃琴にあたり 古の歌となる」

両神社の静謐な空間の中で、石や岩、樹木の沈黙の歌が響き渡っているかのような感覚にとらわれた。

彼の地をあとにし、そして、帰りの車中でこの詩言に出会った。

久し振りに長い詩を書いてみようと思った。


『もはや詩が書けない 詩のないところに詩がある うつつの断片のみ詩となる うつつは淋しい 淋しく感ずるが故に我あり 淋しみは美の本願なり  美は永劫の象徴』 西脇順三郎


『マンガ「書」の歴史と名作手本』 魚住 和晃【編著】/櫻 あおい【絵】 講談社

王義之と顔真卿の書を中心に過去の名筆が紹介されており、楽しめた。
しかし、書聖といわれた王羲之であるが、書家である前に、当代きっての政治家であり、将軍であったことをあらためて思い出した。
ちょうど、自民党総裁選の直前に本書を読んでいたのだが、現在、どれだけ、まもとな字を書ける政治家がいるのだろうか。
家には山岡鉄舟の書(勿論、複製ではあるが)を自室に掛け、毎日、眺めている。
あらためて、字は人なりと感じてならない。
本日、明治の元勲の一人、政治家でありながら、書家でもあった副島種臣の書を石川九楊が編した作品集が出ていることを知り、思わず、ポチってしまった。

【目次】

まえがき―殷から唐・大河のごとき書の潮流

第1章 殷から漢へ―「漢字の誕生」

第2章 書聖・王羲之

第3章 北朝書法―頂点に立つ北魏芸術

第4章 顔真卿と屹立する書人たち

書の歴史年表


『運は遺伝する』 橘玲・安藤寿康 NHK出版

『言ってはいけない—残酷すぎる真実』『上級国民/下級国民』『無理ゲー社会』で有名なベストセラー作家、橘玲と行動遺伝学を専門とする研究者の安藤寿康の共著。対談集。

橘玲の著作の多くで触れらえていた行動遺伝学を通じて、判明した残酷な事実と真理であるが、その第一人者との対談であるのだから、面白くないわけがない。

行動遺伝学とは心理学と生物学をあわせもった学問で、遺伝と環境が人間の特性にどのような影響をあたえているのか研究を行っていると自分は考える。

そして、その行動遺伝学から判明した代表的な事実として、以下のものが挙げられていた。

・人間の行動形質は全て遺伝の影響を受ける。
・才能の約50%は遺伝で決まり、残りの半分は育った環境で決まる。
・同じ家庭で育ったことの影響は遺伝の影響よりも小さい。
・知能は遺伝子の影響を60%程度受けることが示されており、年齢を重ねるにつれて遺伝の影響が強くなりやすい。

しかし、才能や知能の半分近くが、遺伝の影響であるという事実に対し、「あと半分は環境や自身の努力で補っていくことが可能であるのだな」と捉えられるポジティブな人はどれほどいるのだろうか。

また、追い打ちをかけるようではあるが、そうポジティブに思えるという特性にも遺伝的資質が大きく関わってくるというのだ。

橘氏が自著に『無理ゲー社会』『言ってはいけない—残酷すぎる真実』のタイトルをつけたことも大いに首肯できる。

知性や能力、性格、そして運までも遺伝子の影響からは免れないと本書では説かれていた。

ただ、重要なのはこういった厳しくも残酷な事実を直視し、実際に行動してゆことだと自分は考える。

遺伝子のせいにして、研鑽を放棄するのではなく、また、人間は平等で、努力次第でなんとでもなると理想を語ることでもない。

ナチスの優生思想の反動からか、行動遺伝学は差別的な学問であると、それこそ、非科学的な風潮が残存していると研究者である安藤氏も語っていたが、これは本当に由々しき事態といっていいだろう。

現在の知識社会では経済格差と知能格差は相関関係にあり、乱暴にいえば、馬鹿は一生、貧乏なままで、その連鎖はその子どもたちに受けつがれていってしまう可能性が大なのだ。

安藤氏は行動遺伝学だけでなく、教育心理学、進化教育学の研究者でもあり、この格差の広がりを憂いていたことが印象に残った。

本書、教育関係者の多くにも目に触れて欲しい一冊であった。

【目次】

第1章 運すら遺伝している―DNA革命とゲノムワイド関連解析

第2章 知能はいかに遺伝するのか

第3章 遺伝と環境のあいだ

第4章 パーソナリティの正体

第5章 遺伝的な適性の見つけ方

第6章 遺伝と日本人―どこから来て、どこへ行くのか





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ぴんぱ
人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光りあれ。

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