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言語の本質

『言語の本質』~ことばはどう生まれ、進化したか 
今井むつみ/秋田喜美 著 中央公論新社 (2023/5)

「本屋大賞」ではなく、「新書大賞」なるものが存在することを最近知った。

各年1年間に発行された新書の中から、書店員、書評家、各社新書編集部、新聞記者にオススメの新書を挙げてもらい、全員の得点を合計して、1位から20位までの順位を決め、1位の作品がその年の大賞となるとのことで、2008年に設立されており、出来てからすでに10年以上も経過している。

その2024年度の第一位が本書「言語の本質」で、認知科学者と言語学者の二人の共著から成り、言語発生の謎に迫るという刺激的な内容であった。

我々の生活になくてはならない言語。この言語発生の謎をこどもたちの言語習得のプロセスを丹念に観察、計測していった経過、その謎を解くカギがオノマトペにあるという仮説に著者たちは行きついた。

オノマトペは言語学の研究の中では、比較的、軽んじられてきた背景があるとのことだが、どっこい、本書では言語の発生に大きく関わったのがこのオノマトペであったという大胆な説の提示より本書はスタートしている。

それを豊富に示す事例、データが次々と提示されてゆき、言語の本質と進化、そして、抽象概念を表現できないというオノマトペの限界性まで提示され、非常にスリリングな内容が続いた。

また、人工知能研究者の間でよく語られる「AIの思考」と「人間の思考」の本質的な違いとして、「記号接地問題」と呼ばれる問題がある。

この「記号接地問題」は、ChatGPTに代表される人工知能は一見、ことばの意味が分かるように見えているが、実は一つ一つのことば(記号)の意味を理解しているわけではなく、膨大な情報を計算の下、並び替えてアウトプットしているだけにすぎず、人間が言語で伝えようとする本当の「意味と意図」は理解できない、というのが「記号接地問題」だ。

ChatGPTに代表される人工知能は人間と異なり、目や耳、鼻などの五感と呼ばれる感覚器官を持っていない。よって当然ながら、言葉(記号)一つ一つを、経験や感覚に対応づけることが出来ない。つまり、身体感覚に「接地していない」状態にあるのだ。

実は、単語一つ一つの「意味」を理解していないにもかかわらず、あたかも理解しているようにふるまい、言語で伝えようとしているのが、現在のAIとよばれるものであり、身体性の経験を得ずして、本当の「意味と意図」は理解できない、というのが「記号接地問題」と呼ばれている。

そして、人間の言語習得の過程において、この「記号接地」に一役かっているのが「オノマトペ」であったのだ。

他、何故、オノマトペの豊富な言語と少ない言語があるのか(日本語やスペイン語が多いが、英語やドイツ語は少ない)等のメカニズムも知れ、非常に得心がいった。

【目次】

第1章 オノマトペとは何かあるのかでタグ
第2章 アイコン性―形式と意味の類似性
第3章 オノマトペは言語か
第4章 子どもの言語習得1―オノマトペ篇
第5章 言語の進化
第6章 子どもの言語習得2―アブダクション推論篇
第7章 ヒトと動物を分かつもの―推論と思考バイアス
終章 言語の本質

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ぴんぱ
人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光りあれ。

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