映画『夜明けのすべて』感想文。
最近ちょうど、男女の友情だとかに悩んでしまう件があって・・・
セクシャルマイノリティのコミュニティーで話題になっていたこの映画になんかビビッときたので勢いで鑑賞。
未鑑賞の方はお気をつけください。
序盤の数分の時点でもう涙が。(悩みすぎて初めから涙腺が緩んでいたかも笑)
初めは萌音ちゃん演じる藤沢さんがPMS(月経前症候群)に悩む姿が描かれる。これは女性の体を持つ方の大半が共感する部分ですかね。ただ生理による体調不良も本当に人それぞれ。私も生理前のイライラ、生理後の希死念慮がある。でも痛みもメンタルも何にも支障ないという友人もいる。女性だからって全員がしんどさを共感できないところがまた(世間的に)難しいところ。
劇中にもセリフであるけど『自分のことなのに上手くコントロールできない』これが理解されないのが辛い。大人になれば自分のことぐらい自分でコントロールしろってよく言われるけど。大人だってコントロールできないことはたくさんある。
北斗くん演じる山添くんはパニック障害と闘っている。彼も同じく『自分のことなのに上手くコントロールできない』ことに苦しんで生きている。
病気を抱えるせいで退職するに至った二人が新しい職場で出会い、自分でどうしようもなく薬に頼る障害と闘いながら、段々とお互いを助けるために理解しあっていく温かいお話。
自分をコントロールできないときに怖いのは、周りに迷惑をかけること。
藤沢さんはPMSの症状でイライラを他人にぶつけてしまう。しかし冷静になれば罪悪感に苛まれ、お詫びをする日々。藤沢さんは普段から人に気を遣うし、気にする性格だし、誰かにおせっかいもしてしまうぐらい優しさもあって、その環境で上手く関係性を作っていける術も持っているように見えるけど、愛想笑いが上手いような雰囲気だったり、人と対面しているときも目線が定まらなかったり、やはり生きづらさを感じているような描写もあり、反動でより症状が大きく出てしまうような気が。というか萌音ちゃんのその自然な演技が凄かった。。
山添くんも病気の発症をキッカケに前職を退職していて、恐らく元同僚の恋人とも距離を置いている。元々は仕事にもやる気があってやりがいを感じていたり、友人もいて恋人もいて充実していたところで病気をキッカケに出来なくなってしまったことが増えて(電車に乗れない・ご飯が美味しくない・美容院に行けない等)、その悔しさや絶望からプライドも捨てきれず、人との関わりを避けているよう。
自分が自分じゃないような感覚、そして他人にも迷惑をかけてしまうという状況は恐怖でしかない。
人と上手くコミュニケーションを取れなくなってくるのも仕方ない。
しかし、この映画の周りの方々は優しい世界だった。
PMSの症状が出てしまった藤沢さんを「あなたは悪くないよ」と言って別の場所へ離してくれたり、パニック障害で過呼吸になってしまった山添くんを外へ連れてって休ませてあげたり。二人とも前職では辞めざるを得ない状況になってしまったけど、二人が出会った職場ではそんな障害も受け入れてもらえる環境であったことも救われた一つだと思った。
受け入れてもらえる要因として、社長が弟さんを自死によって失っていることもありそう。気付けていないところで生きづらさを感じている人はいるかもしれない、そんな人も守りたいという気持ちがあったのではないだろうか。
山添くんの前職の上司も、いつか山添くんがまた戻って来られるように準備をしてくれていた。きっと彼の実力を認めていて、障害のせいで諦めてほしくなかったんかな。山添くんは結局、新しい会社で心を開いていき、この会社に残る決意をする。新しい職場での話を楽しそうにする山添くんを見て涙を流す上司さんにグッときた。。きっと嬉し涙。
それと同時に感じたこと。
心地よく仕事ができるのは結局職場の人間関係だな、と。
山添くんはきっと前職でバリバリ働いていて、その職にやりがいも感じていて、きっと自信もあったはず。だから新しい職場の単純作業はつまらないし、職場でお菓子を分け合うような社員の関係性が好きになれなかった。
それでもちゃんと接してみたら優しくて仕事に誇りも持っていて”悩みを抱えた自分”を受け入れてくれる感覚もあったから段々と心を開けたのかな。最初は興味の持てなかった業務に段々とやりがいを感じ始めて、会社に居続ける選択をする。会社が大きい小さいとか、業務が派手とか地味とか関係なく、どの会社にいようが自分の得意なことを生かせるか、好きになれるかっていうのも大事だと思った。
社員が放送部の中学生にインタビューされてる時に「この会社の良いところは?」っていう質問に答えられてなかったのは面白かった。めちゃくちゃ優しい環境が良いところでしかないのに、それにピンと来てないっていうのはその対応が当たり前になってるっていうこと。優しい世界すぎる。ここで働かせてください。
藤沢さんと山添くんは、お互いのお家に行ったり、髪を切ってあげたり、同僚としても協力してプロジェクトをやり遂げたりしていくけど、友人でもなく恋人にもならず、互いに辛い悩みを抱えたもの同士が互いを理解しあえば、少しは助けてあげられることもあるよ、でも自分の病気とは自分で向き合っていこうねっていう仲間みたいな絶妙な関係性になる。実際、藤沢さんが実家付近の職場に転職すると山添くんに伝えた時も「そうなんですね」ぐらいの反応なのが逆に良い。
PMSの症状で爆発寸前の藤沢さんに気が付いた山添くんが外に連れ出して、周りに当たらないように怒りを吐き出させてあげる(それも受け止めてあげる)場面は良かったなぁ。
映画の中では、絶対的な作者のメッセージのようなものが強く出ている訳ではない。
だから、もしかしたら自分の職場にいる人、自分の隣にいる人が、何かしら障害やマイノリティな特性を持っているかもしれない、それを抱えて息苦しく感じているかもしれない、と気付くキッカケになったらいいなと思った。
みんな平気な顔してるかもしれないけど、心の中は平気じゃないかも。
でもそんな人もいるんだって、特別扱いする訳でもなく、自然に受け入れてくれたらそれでいいんじゃないかと、私はそう願っている。