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映画『まる』感想。オススメできないオススメ作品。

堂本剛さん主演の『まる』を鑑賞しました。
最近周りの知り合いの中で綾野剛さんが流行っているので、その流れで知った作品でしたが、
予告を見た印象では、人間の心理をついたミステリーのような雰囲気を感じ取ったのでとても気になっていました。
ところが実際はミステリーのような怖い印象はほとんど無く、
穏やかでポップな印象、の中に潜む怖さがあるような作品でした。

映画の3分の1ぐらいまで観て、この作品の伝えるモノ、重圧とか色々が分かってきた頃、そんな様々なメッセージを受け取る事がすごく怖く感じ始め、途中から見るのが苦しくなってきました。

決してぶん殴られたとかそこまでの衝撃じゃない。でも知らぬ間に深く奥底にまで到達した何かに、ずっと柔い部分をドンドンつつかれてるような感覚になりました。苦しかったです……でも観なきゃ……と縋り付くように観ました。

※以下、映画のネタバレを含みます。


沢田の作品だけが自分の知らないところで一人歩きしていて
自分が沢田であるのに偽物を疑われて
本物だと気付けば手のひら返されて
沢田自身ではなく”作品”しか見られてない
何かしらの創作をする人たちには、どこか葛藤を抱くところですよね。

沢田が家中に”まる”を描き出すシーンで、おそらく沢田と同じように、ようやく何かから解放されたように涙がこぼれてきました。

元から感情が表に出づらく、表情もほとんど変えない沢田が、
どんどんクマが酷くなって、内側の黒くなっていく感情を表現されているのが辛かったです。

ヤバすぎる隣人()横山と、突き破って繋がった壁の穴を通して想いを吐露する場面、
堂本剛さんの泣きの演技がリアルすぎて凄かったです。
声を漏らさないように殺す、でも涙は止まらない、喋れない。
どんな不当な扱いを受けようと、気持ちを表に出さずにやり過ごしてきた沢田が、やっと眠れた瞬間。
「おつかれ、おかえり、おやすみ。」

最近観た映画で言うと『ラストマイル』という作品でも象徴的に描かれていましたが、「眠ること」って本当に大切なんですよね。
それはキャリアやらお金やらプライドやら、何かを捨ててでも大切なのは、「ゆっくりと眠って笑顔で明日を迎えられること」
改めて感じました。

”まる”の呪縛から解放された沢田が、横山からの質問に「まるかバツかで答えて」と言われて「バツ。」って笑顔で答えるのが可愛すぎました。
劇中ノイローゼになるぐらいこちらも”まる”を見聞きしてきたので、
初めて出てくる”×(バツ)”に安心感がありました。

怪我をしていた右腕がやっと治って自由になった沢田。
”まる”ではなく、また好きなように絵を描きだしました。
しかし、その絵には何か足りない…”まる”を足そう!とアートディーラー達はまた言ってくるのです。
沢田は表情も変えずにその絵に”まる”を描き足すので納得したのかな?と思った矢先、”まる”の中心を右腕で突き破る!!!
せっかく右腕治ったのに!痛そう!笑
金儲けの為に自分の描きたい絵を描けない人生を選択しなかった沢田に泣いてしまいました。

元々沢田が”まる”を描くキッカケになったと思われる先生がいるのですが、あれだけ”まる”について力説してきたにも関わらず、
最後に沢田と会った時にはなんと”三角形”を持っていたのです。
次は、三角が流行るんですか……?先生……!!

エンドロール後にも何点かの絵画が映されていましたが、
沢田の作品なのかなぁ、と思いながら眺めていました。
どの作品も、幻想的・抽象的で、ふんわりと、風景を感じるものが多かったです。
これらが沢田の本当に描きたいものなのだとしたら、
”まる”が自分の思いも寄らない評価を受けているのはよく分からなかっただろうし、秋元のアシスタントしてるときも全然違うテイストだったので楽しくなかっただろうな~と思います。

この作品の主役が堂本剛さんなのは、とってもピッタリだったと思いました。
表から見るとどこかぼんやり のほほんとして見えるけれど、しっかりと芯があったり内に秘めた熱いものがあったり。そしてアートという独特な感性を表現できる人。
左手一本で”まる”をあんなに綺麗に描ける人なかなかいませんよ。

映画全体のつくりとして
全てがリアルなストーリーだけを描くのではなく、
事件が解決するとか、謎の人物の正体が明かされるわけでもなく、
映像美や、妄想、幻覚のような、主観でもなく客観であったり、
この映画自体が、ひとつのアートのような雰囲気を感じました。

映画を観終わって初めに浮かんできた言葉は、
誰でもない誰か、それとも世間?漠然とした何かに向けて
「うるせーよ。」と、叫びたくなりました。

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