羽黒山石段詣
羽三山(でわさんざん)は、山形県の中央にそびえる標高414mの羽黒山(はぐろさん)、1984mの月山(がっさん)、1504mの湯殿山(ゆどのさん)の総称です。約1400年前、崇峻天皇の御子の蜂子皇子(はちこのおうじ)が開山したと言われています。
この三つの山は、それぞれ過去・現在・未来を表し、すべてを巡ることで生きながら新しい魂として生まれかわることができるとされています。江戸時代に庶民の間で現在・過去・未来を巡る「生まれかわりの旅」として広がったということです。
羽黒山は現世の幸せを祈る山(現在)
月山は死後の安楽と往生を祈る山(過去)
湯殿山は生まれかわりを祈る山(未来)
石段詣(いしだんもうで)はこの「生まれかわりの旅」が誰でも手軽に体験できる参拝プランです。注連(ちゅうれん)をかけて石段を歩くという、他ではできない体験もできます。
注連とは、神聖な場所を区別したり、不浄の進入を禁止したりする縄や、その縄を飾ったもの。いわゆる、注連縄(しめなわ)です。注連をかける意味は、注連が結界を意味し、山中の魔障が憑かないようにするものなのだそうです。また、修験者が本来用いる結袈裟の流れを汲むもので、結袈裟の結は「結縁(神仏と縁を結ぶ)」という意味があるようです。石段詣では、この注連はおしるし(記念品)として持ち帰れます。
事前の下調べでは、石段は2446段ある。登るには約1時間半かかるようだ。
せっかくだから昼食は精進料理を食べることにした。10時に登り始めて、途中で休憩してお昼前に山頂に到着。少し休んで汗が引いてから昼食。そんな計画で鶴岡市内に前泊した。プラン通り9時には山麓の駐車場に到着した。
歩きやすい、汗をかいても対応できるような服装と歩きやすいシューズが適しているとの情報で、半袖のポロシャツにジーンズ、スニーカーというスタイル。頭はキャップ、念のためにユニクロのポケッタブルパーカーをバッグに押し込んである。
まずは、受付。随神門の授与所へ。ここで、「石段詣」の手続きをします。
スマホでQRコードを読み取って、指定されたアドレスにメールを送り返してメールアドレスを登録するというのが手順。手持ちのスマホで試したが、QRコードは読み込めたが、メールのアプリが違うのかメールを受信できず、代わりにメールアプリのダウンロード画面が表示された。このようなドジな人のためにアナログな方法も用意されている。「石段詣」と印字されたカードに日付と出発時間を記入してもらい、これを受け取って出発の手続きを完了する。ちなみに記入された出発時間は9時16分でした。
初穂料1000円を払って、注連を受け取ります。注連に結ぶことができる色とりどりの縁紐もあります。色ごとに運が分かれていて、赤/恋愛運、黄/財運、緑/健康運、紫/学業成就、白/生業運となります。全てご祈祷されています。1本200円です。全てをつけることも可能ですが、欲張らず健康を願って緑色の紐を選びました。
リーフレットをいただいて準備完了。注連をつけた後ろ姿の写真を一枚撮って出発。
神域への入口である随神門をくぐります。門を抜けると「継子坂」という下り坂になります。やがて「祓川」にかかる赤い橋「神橋」が見えてきます。山上と俗性を分ける境界です。昔はこの川で身を清めてから参拝をしたそうです。印象的な赤い橋、祓川に落ちる「須賀の滝」などを写真に収める。
平坦な道が続きます。周辺の杉木立の中でひと際大きな「爺スギ」とよばれる巨木と、国宝の五重塔が見えてきます。約600年前の再建で、東北地方最古の塔といわれているそうです。ここまでは前にも一度来たことがあります。その時は巨樹と五重塔を見て引き返し、車で山頂まで登って三神合祭殿をお参りしました。
今回は石段詣、徒歩で先に進みます。五重塔を過ぎると「一の坂」と呼ばれるやや急な上りになります。自分の歩幅とは微妙に合わない石段の踏面と段差、踏み外さないように、滑らないように、気を引き締めて、一歩一歩登って行く。樹齢350年から500年の杉並木が続く。静けさと、杉の香りに包まれる。じわじわと汗ばんできた。
一の坂を登りきってホッとする間もなく、すぐに「二の坂」が現れる。急勾配。別名油溢し(あぶらこぼし)ともいわれ、武蔵坊弁慶があまりの勾配に奉納する油をこぼしてしまった、というエピソードが残っているそうです。
勾配がきつく、加えて距離も長い。普段のウオーキングは平たんなところしか歩いていない。石段を登るという行為には数倍の負荷を感じる。かなりの疲労感がある。立ち止まって汗を拭き、また立ち止まっては水を飲む。これを何度も繰り返す。汗をたっぷりかいて二の坂を上りきる。両足の疲労感が半端ない。
予定通り「二の坂茶屋」で休憩。時刻はまだ10時前。
茶屋を営む高城さん一家は毎日石段を登り、手づくりの力餅やお抹茶をつくっているそうです。
目の前は庄内平野が一望できる絶景です。天気が良ければ日本海が見えると教えてくれました。餡子3個、きな粉2個、計5個の力餅をペロリとたいらげる。30分ほど休んで10時30分に重い腰を持ち上げた。
休憩で回復した体力に力餅のパワーが加わった気分だ。目の前の最後の坂「三の坂」も「二の坂」を前にした時ほどの圧迫感はない。坦々と登って行く。石段にも慣れてきたようだ。
三の坂の途中「埴山姫神社」が見えてくる。ここは縁結びの神様。ふもとの随神門か、山頂の参集殿で購入できる「埴山姫神社」のお守りには、赤い紐がついていて、この紐を埴山姫神社の格子に結んでお祈りするとご利益があるらしい。赤いリボンがたくさん結び付けられている。
登り続ける。山頂の手前の「斎館」が見えてきた。大きな赤い鳥居も見えてきた。石段をのぼりきり、大きな鳥居をくぐって山頂に到着。
目の前が「三神合祭殿」。月山神社、出羽神社、湯殿山神社の神様を祀っています。三山のお参りが一度にできる「生まれかわりの旅」のゴールです。
参拝をすませてから「参集殿」へ。ゴールをしたことを職員の方に伝え、完了の手続きをします。麓の随神門の受付で頂いた「石段詣」のカードに到着時間(11時00分)を記入してくれます。また「生まれかわりのおしるし」をいただけます。
山頂にある蜂子皇子を祀る「蜂子神社」ほか、たくさんの神社をお参りして完了。足には疲れがありますが、気分はすっきり、晴れやかです。「生まれかわった」実感はありませんが、登り切った達成感は何物にも代えがたいものです。
予約しておいた「斎館」の精進料理で昼食。山頂バス停を13時00分発の鶴岡行きバスで車を停めてある随神門駐車場まで下って、石段詣でが無事終了した。