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社会に出る前に-ミルフィーユ鍋-
好きな食べ物は何かを真剣に考えたことがある。
自分は優柔不断でいろんな食べ物が好きだから、その時々に応じて大体回答が変わる。お腹がペコペコならステーキが食べたい。舌鼓を打ちたいならお寿司もいい。ジャンクなハンバーガーが食べたいときもあれば、上品な甘さのチョコレートを欲すこともある。
では質問を少し変えてみて、毎日食べるものを一つだけにするとしたら、何を選ぶだろうか。
私はミルフィーユ鍋だ。
鍋の最小単位の白菜と豚バラのみを使用していながら、これ以上ないパフォーマンスを発揮してくれる。作り方も簡単で、白菜と豚バラを交互にまな板の上に重ね、適度な高さになったら四等分する。それを鍋に隙間なく敷き詰め出汁や水、各種調味料を入れて、蓋をして煮る。あとはひたすら待って、白菜がトロトロになったら完成(いい感じにシャキシャキ感が残っててもおいしい)。
確か中学生の時に母から教えてもらった。両親が共働きの家族で、特に母は早朝から夕方までパートで働いていたから、疲れている中で簡単に作れるメニューが家族の中で流行っており、特にミルフィーユ鍋は自分が初めて食べて「これいいね」みたいなことを言ったからか、冬場の定番としていつの間にか頻繁に食卓に並ぶようになった。どうしても母が疲れていて晩御飯を作れない時は自分が代わりにこれを作り、ささやかながらの親孝行としてよく作っていたものだ。存外兄はそこまで好きではなかったらしく、またかと思いながら黙って食べていたことを最近知った。それを聞いてあまり悪い気がしなかったのは、なんだかんだ大量に仕込んだ鍋を余った分まで平らげ、作ってもらったからと皿洗いまでやってくれていたからだろう。
大学生になり、授業がオンラインだったり平日に休みの日を設けたりすることが多くなってからは自分用のお昼ご飯として作るようになった。前日の白米の残りを食べきりつつ、家にある食材で簡単にできるメニューとしてもミルフィーユ鍋は優秀なのだ。慣れた手つきで仕込みをし、似ている間にまな板やたまっている皿を洗う。ついでに洗濯を回しておくと食べ終わったあたりにすぐに干す工程に移れるから効率もいい。最近の流行りはコンソメを入れること。白菜が安くて家にストックしているときなんかは週3くらいで食べてたっけ。最近は白菜がすっかり高くなってしまったけど、たまに安売りしてるときは豚バラとセットで買いに行く。自分でご飯代を出すようになって感じたけど、白菜さえ安ければお財布にも優しいメニューである。社会に出るまでの間に料理を覚えたいとなんとなく考えていて、なんだかんだもうあと一年しかないことに焦りを覚えるけど、ミルフィーユ鍋さえ作れるなら何とかなるかと安心感を毎回感じる。疲れていても作れるものこそ、今の自分に必要なものなのだ。